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保険医取消処分に関する歯科訴訟の判例をご紹介します。保険医に関する行政処分、保険請求のトラブルにお悩みの歯科医の方は、歯科医師のための弁護士、サンベル法律事務所に迷わずご相談下さい。

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歯科訴訟:保険医登録取消処分の公表と名誉棄損

保険指導監査に強い、歯科医師のための弁護士です。

保険医・保険医療機関への個別指導、監査、取消処分にお悩みの歯科医の方は、サンベル法律事務所にご相談下さい。指導、監査、取消処分の対応は、弁護士のアドバイスを受けるべきです。

弁護士鈴木が力を入れている歯科医院法務に関するコラムです。
ここでは、歯科訴訟の判例のご紹介、ご説明を致します。


取り上げる判例は、平成15年9月12日名古屋地方裁判所の判決です。
なお、説明のために、事案等の簡略化をしています。

歯科の個別指導、監査、取消処分に悩んでいる歯科医の方は、良い効果が期待できますので、歯科の指導、監査、取消処分に詳しい弁護士への速やかな相談を強くお勧めします。詳しくは、以下のコラムをご覧いただければ幸いです。
・ 歯科の個別指導と監査

 事案の概要

歯科医師が、国に対し、保険医の登録取消処分等の記事を保険医の再登録等が可能となった後も厚生省(厚生労働省)のホームページに掲載し続けられたことにより、名誉及び社会的信用を著しく傷つけられ精神的苦痛を被ったとして、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料2500万円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求めた事案です。

事案の概要は以下のとおりです。

1 保険医登録取消処分のホームページ上の公表に至る経緯

原告の歯科医師は、岡山県において歯科医院を開設していた歯科医師である。平成2年に保険医の登録を行い、岡山県知事は、歯科医師を開設者とする本件歯科医院に対し、平成9年に保険医療機関の指定を行った。
岡山県知事は、平成10年7月1日に本件歯科医院の保険医療機関の指定取消及び歯科医師の保険医の登録取消の各処分を行い、岡山県広報に、本件各取消処分について告示を行った。
保険医療機関の指定取消及び保険医の登録取消の各処分が行われた場合、都道府県知事(平成12年4月1日からは厚生労働大臣)は、処分の日から2年間(ただし、法改正により平成10年8月1日以降の処分については5年間)は当該保険医療機関及び当該歯科医師からの登録を拒むことができることになるから、本件各取消処分によって、歯科医師は、平成12年6月30日までの2年間は保険医の再登録等ができないことになった。
本件各取消処分の後しばらくして、歯科医師は、本件歯科医院を閉鎖した。
厚生省(平成13年1月6日からは厚生労働省)は、平成11年12月に本件各取消処分を含む平成10年度に行われた全国の保険医登録取消処分等に係る情報をとりまとめ、報道発表資料として報道関係者に発表するとともに、同資料を「平成10年度における保険医療機関等の指導及び監査の実施状況について」の中の「平成10年度保険医療機関等取消状況」として、厚生省(厚生労働省)の運営するホームページに掲載した。
かかる掲載のうち、本件各取消処分に関する記事の内容は、下記のとおりである。
                 記
都道府県名      岡山県
医療機関(薬局)名  A歯科医院
取消年月日      平成10年7月1日
保険医等名      B(歯)
返還額/事故内容   1,752千円/付増、振替、重複

2 掲載記事の削除に至る経緯

愛知社会保険事務局長は、歯科医師に対し、欠格期間経過後の平成12年9月1日、保険医の登録を行い、岡山社会保険事務局長は、被告歯科医師を開設者とする歯科医院に対し、平成13年8月1日、保険医療機関の指定を行った。
そして、歯科医師は、同一の住所地において歯科医院を開設して、歯科診療業務を再開した。
厚生省(厚生労働省)は、本件各取消処分について欠格期間が経過した平成12年7月1日以降も、本件記事を本件ホームページに掲載し続けた。
歯科医師は、平成13年12月ころ、親戚からの電話によって、本件ホームページに歯科医師の実名を挙げて本件各取消処分の内容等が掲載されていることを知った。
歯科医師から相談を受けた弁護士が、平成14年1月23日、厚生労働省保険局医療課医療指導監査室に対し、本件記事を削除されたい旨電話で抗議をしたところ、厚生労働省担当者は、翌24日、本件記事を含む「平成10年度における保険医療機関等の指導及び監査の実施状況について」の掲載全部を削除した。

 争点及び裁判所の判断

争点1 厚生省担当者が欠格期間経過後も本件記事を掲載し続けたことの違法性の有無

【裁判所の判断】
1 保険医登録取消処分等のホームページ掲載の法的性質
本件記事は、厚生省(平成13年1月6日からは厚生労働省)が全国の保険医登録取消処分等に係る情報を年度ごとに取りまとめて、報道関係者に発表するとともに、本件ホームページに掲載したものの一部で、この掲載自体は、権力性とは直接関係なく、国民に対する説明ないし情報公開をその本質とするものであり、行政上の規制に従わない者等に対する制裁や強制手段としての性格を有するものではないことからすると、非権力的な事実行為であると認められる。
もっとも、保険医登録取消処分等の内容を被処分者の実名を挙げて本件ホームページに掲載する行為は、被処分者等の名誉や社会的信用を傷つける可能性のある行為であるから、担当省庁において全くの自由裁量で掲載するか否かあるいは掲載方法を決定できるとすることは許されず、掲載の必要性ないし合理性の有無、掲載方法の相当性などの事情を吟味し、掲載の必要性や合理性が認められず、あるいは掲載方法が不相当であって、その結果被処分者等の名誉や社会的信用を傷つけ、人格権を侵害した場合には、当該掲載が担当者の職務上通常尽くすべき注意義務に違反したものとして、国家賠償法上違法と評価される。

2 掲載の必要性、合理性について
平成9年に診療報酬不正請求事件が社会的に問題となったことを契機に、国会等において保険医療機関に対する指導監督の強化が論じられ、かかる社会的状況を背景として、厚生省は、平成9年12月25日から平成8年以降の当該年度に行った保険医療機関等取消状況を「厚生省ホームページ運用基準内規」に従ってホームページへ掲載し始めたものであり、平成8年度と平成9年度の取消状況については「報道発表資料」として上記内規によりホームページへの掲載期間は3か月とされたが、その後、国民に対し行政情報を積極的に公開することを望む声が高まり、平成11年12月1日に上記内規を改正して「報道発表資料」のホームページへの掲載期間を「期限設定なし」として、具体的な掲載期間は担当部局の判断によることとされたことが認められる。
そうすると、本件ホームページへの保険医療機関等取消状況の掲載は、健康保険法上の制度や運用に関する事項を国民に説明ないし情報公開し、また保険医療機関等に関しては、違法行為を行わないよう啓発するとともに、究極的には法制度及び保険医登録取消処分等の運用に対する国民の信頼を確保することを目的とするものと認められる。
そして、保険医登録取消処分等が保険医療という国民の健康、利益に直結する事項に関するものであり、また医師等の専門的資格を有する者に対する処分であることからすると、国民に対する情報公開の必要は高く、同取消処分等に関する情報公開の必要性が欠格期間の経過によって当然に消滅するとまではいい難いところである。
他方、欠格期間経過後には、被処分者等は、再び保険医の登録及び保険医療機関の指定を受けることが可能となることからすれば、被処分者等の中にも、新たに保険医の登録等を受けることによって保険医療業務を再開している者等もいると考えられ、とりわけ保険医療業務を再開した者にとって、過去に行政処分を受けた事実を公表され続けることによって名誉や社会的信用を著しく傷つけられることは、想像に難くない。
かかる被処分者等の被る不利益の大きさに鑑みると、前述の掲載目的や保険医登録取消処分等の特性を考慮してもなお、過去の保険医登録取消処分等の事実を欠格期間経過後においてまでホームページに掲載し続ける必要性、合理性がそれほど高いとは認められない。

3 掲載方法の相当性について
本件ホームページには、平成10年度に行われた保険医登録取消処分等について、欠格期間が2年の処分(同年7月31日まで)と欠格期間が5年の処分(同年8月1日以降)が混在していたにもかかわらず、両者が区別されることなく掲載されていたこと、また保険医登録取消処分等の根拠となる法律、条文や欠格期間について何ら掲載がなかったことが認められる。
国民の大部分は、保険医登録取消処分等の根拠となる法律、条文や欠格期間等についての正確な知識を有していないのが通常であることからすると、本件ホームページに本件記事が掲載されている以上は、被処分者等が欠格期間経過後に新たに保険医の登録等を受けていたとしても、本件記事を閲覧した者には、閲覧時点においても被処分者等がいまだ保険医療業務を行う資格がない状態にあるとの誤解を与える可能性が高いものと認められる。
保険医登録取消処分等が公共性を有する過去の事実であって、情報公開の必要性が欠格期間の経過によって当然に消滅するとまではいい難いものであるとしても、保険医登録取消処分等の欠格期間経過後においても、「平成10年度保険医療機関等取消状況」として被処分者の実名を挙げてそのまま本件ホームページに掲載し続けることは、欠格期間経過後に適法に保険医資格を回復して医療業務を営む者についても、本件ホームページを閲覧した者において、当該被処分者が違法に保険医療業務を再開しているように誤解を招くおそれが強いものである。本件ホームページを閲覧した者において、閲覧時の本件ホームページに掲載された被処分者等全員について、いまだ欠格期間が経過しておらず、保険医療業務を適法に行う資格がない状態にあると誤解するおそれが極めて強いのであるから、上記の記事のホームページへの掲載継続は、欠格期間が経過した被処分者の名誉や社会的信用に対する配慮を著しく欠くものといわざるを得ない。

4 小括
以上検討したところによれば、厚生省あるいは厚生労働省の担当者は、平成10年7月1日の歯科医師の本件各取消処分から2年間の欠格期間経過後である平成12年7月1日以降においては、本件記事を本件ホームページから削除するか、もしくは、掲載を継続するのであれば、2年の欠格期間をホームページ上で明示するなど歯科医師の処分について既に欠格期間を経過していることが閲覧者に分かるような態様で掲載すべき注意義務があったにもかかわらず、かかる注意義務を怠って、漫然と本件記事の本件ホームページへの掲載を継続したものといわざるを得ない。
そうすると、厚生省あるいは厚生労働省の担当者が平成10年7月1日の歯科医師の本件各取消処分から2年間の欠格期間経過後である平成12年7月1日以降においても本件記事を本件ホームページに欠格期間を明示することなくそのまま掲載し続けた行為は、歯科医師の名誉や社会的信用を傷つけ、人格権を侵害するものとして国家賠償法上違法である。

争点2 歯科医師の損害

【裁判所の判断】
歯科医師は、欠格期間経過後の平成12年9月1日に適法に保険医の登録を行い、平成13年8月には岡山県内で歯科診療業務を再開している者であり、同年12月ころ、親戚からの電話によって本件ホームページに実名を挙げて本件各取消処分の内容等が掲載されていることを知った際の歯科医師の精神的ショックが大きかったことも容易に推認できるところである。
厚生省あるいは厚生労働省の担当者の前記違法行為により歯科医師が被った精神的苦痛に対する慰謝料の額は、本件記事の本件ホームページへの掲載の態様、欠格期間経過後の本件記事の掲載期間など本件に現れた一切の事情を考慮して、これを30万円と定めるのが相当である。

 判決:結論

被告は、原告に対し、金30万円及びこれに対する平成14年1月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。


指導監査による保険医登録取消に関するトラブル、保険医登録取消処分の訴訟、裁判に悩んでいる、あるいは保険医登録取消に関する訴訟提起を検討されている歯科医の方は、迷わずお電話を下さい。ご状況を十分確認聴取した上で、取るべき対応、留意点などを具体的にアドバイス致します。


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