歯科の個別指導の書籍を出版し、歯科の指導監査に強い、弁護士の鈴木陽介です。
個別指導、監査には、弁護士を立ち会わせるべきです。
ここでは、保険医登録不登録処分取消等請求控訴事件の判例をご紹介します。
取り上げる判例は、平成26年10月8日東京高等裁判所の判決です。
説明のために、事案等の簡略化をしています。
指導監査については、以下のコラムもご覧いただければ幸いです。
【コラム】歯科の個別指導と監査の上手な対応法
事案の概要
指導監査の判例:保険医の不登録処分の要件で取り上げた平成26年4月18日東京地方裁判所判決の控訴審です。
すなわち、過去に2回健康保険法に基づく保険医の登録取消処分を受けたことのある歯科医師が、平成23年12月5日付けで保険医の登録を申請した(以下「本件申請」といいます。)ところ、中国四国厚生局長から、平成24年5月24日付けで歯科医師を保険医として登録しない旨の処分を受けた(以下「本件処分」といいます。)ことについて、本件処分の前提となった通達の規定は合理性を欠き歯科医師の職業選択の自由(憲法22条1項)を侵害するものであること、本件処分は同局長の裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なものであることなどを主張して、本件処分の取消しを求めるとともに、保険医の登録の義務付けを求める(以下「本件義務付けの訴え」といいます。)事案です。
原審は、本件義務付けの訴えを不適法として却下し、本件処分の取消しを求める請求を理由がないとして棄却したので、歯科医師がこれを不服として本件控訴を提起しました。
控訴審における歯科医師の補充主張は以下のとおりです。
1 本件処分の憲法違反
本件処分は、憲法22条1項に違反する。その理由は、以下のとおりである。
ア 保険医等としての資格は、日本国内において医師等として活動するために不可欠であるから、医師の資格を有する者が保険医等の資格の付与を受けることは、憲法22条1項(職業選択の自由)や25条によって保護される権利というべきである。
イ 健康保険法71条2項の登録拒否の規定の趣旨は、保険給付の内容や費用の適正化の観点から、療養担当規則等の健康保険制度上の義務を保険医等に遵守させることにある。
ウ 具体的な規制措置が、憲法22条1項に違反するか否かは、規制の目的、必要性、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較考量した上で、慎重に決定されなければならない。
エ 本件処分は、本件基準(保険医等の登録取消を2度以上重ねて受けたときに該当する保険医等については、保険医又は保険薬剤師として著しく不適当と認むるものなるときとして、地方社会保険医療協議会の議により保険医等の再登録を拒否することができる。)に基づいてされたものであるところ、2度にわたって保険医の登録取消に相当するような事情が発生したとしても、それは患者や第三者の生命身体の安全を害するようなものではなく、診療報酬に関する経済的な問題を生じさせるものにすぎないから、それだけでは、保険医として療養担当規則等の健康保険制度上の義務を遵守できないとはいえない。そうすると、2度にわたって保険医の登録が取り消されたことにより、保険医等の資格を付与しないということまで規制するのは、明らかに均衡を失している。
したがって、本件基準は、憲法22条1項に違反する。
2 本件処分が違法である特段の事情の存在
仮に原則として本件基準に基づいて保険医の登録を拒否することが適法であるとしても、歯科医師は、無歯科医村同様の地区(本件地区)で保険診療を行う旨の希望を有し、また、本件地区にこれを希望する住民がいることに照らせば、本件処分は違法というべき特段の事情があるといえる。
争点及び裁判所の判断
争点1 憲法22条1項違反の有無
【裁判所の判断】
歯科医師は、本件処分が憲法22条1項に違反する旨主張する。
しかし、保険医の登録を受けて保険診療をする権利なるものが、医師の資格を有する者に対して憲法上当然に付与されるべき基本的人権であると解するのは困難であること、健康保険法71条2項4号にいう「著しく不適当と認められる者」の解釈に当たり、「保険医等の登録取消を2度以上重ねて受けた」ことが極めて重要な考慮要素となるとする本件基準に依拠して、保険医の登録を拒否する処分を行うことは、健康保険制度における給付内容や費用の適正化を図ることを目的とするものと解され、公共の福祉に合致すること、故意又は重大な過失により、療養担当規則等に反する不正又は不当な行為を行い、それを理由に登録取消という重い処分を2度以上受けた者は、類型的にみて療養担当規則等を遵守する意思に乏しく、指導や監査後の措置が効果を発揮しないという評価を受けてしかるべきであることなどに照らせば、そのような者が保険医の登録を受けることができず、保険診療を行えないことになるとしても、歯科医師の職業の自由に対する過度の規制とはならないことは、原判決説示のとおりである。
したがって、歯科医師の上記主張は、採用することができない。
争点2 本件処分が違法である特段の事情の有無
【裁判所の判断】
歯科医師は、無歯科医村同様の地区(本件地区)で保険診療を行う旨の希望を有し、また、本件地区にこれを希望する住民がいることに照らせば、本件処分は違法というべき特段の事情がある旨主張する。
しかし、仮に、歯科医師が無歯科医村同様の地区(本件地区)で保険診療を行う旨の希望を有し、また、本件地区にこれを希望する住民がいるとしても、それらの事情をもって、本件基準に依拠して処分を行うことが不適切であるとされるべき特段の事情があると判断しなかったことが、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くとまではいえないことは、原判決説示のとおりである。
したがって、歯科医師の上記主張は、採用することができない。
判決:結論
本件控訴を棄却する。
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