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保険医取り消しの効力の執行停止の判例です。保険医の取り消しにお悩みの歯科医の方は、個別指導、監査(歯科)に強い弁護士にご相談下さい。

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個別指導、監査の判例(3):保険医取消の効力の執行停止

歯科の個別指導の書籍を出版し、歯科の指導監査に強い、弁護士の鈴木陽介です。

個別指導、監査には、弁護士を立ち会わせるべきです。


ここでは、保険医登録取消処分の取消請求に関する判例をご紹介します。

取り上げる判例は、平成18年1月20日大阪高等裁判所の決定です。
説明のために、事案等の簡略化をしています。

指導監査については、以下のコラムもご覧いただければ幸いです。

【コラム】歯科の個別指導と監査の上手な対応法

 事案の概要

保険医登録を受けて保険診療を行っていた歯科医師が、奈良社会保険事務局長から、平成17年4月27日付けで、歯科医師の保険医登録を同月28日をもって取り消す旨の処分を受けたところ、取消処分は行政裁量権を逸脱した違法な処分であると主張して、取消処分の取消訴訟(本案訴訟)を提起するとともに、処分により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるとして、取消処分の効力の停止を求めた事案です。

事案の概要は以下のとおりです。

1 個別指導、監査に至る経緯

歯科医師は、昭和52年11月8日付けで、健康保険法の規定により保険医として登録され、昭和56年7月1日付けで、その開設する本件歯科医院について、保険医療機関としての指定を受け、以後平成17年4月27日まで、本件歯科医院において、保険診療及び自費診療を行っていた。
本件歯科医師の子は、平成16年3月、大学を卒業し、同年6月1日に歯科医師免許を取得し、同年7月から、奈良市内の歯科医院で研修医として勤務し(この間、患者の担当はしていない。)、平成17年1月からは、本件歯科医院に勤務し、主として、模型実習を中心とした研修と簡単な処置(衛生士業務及び充填処置等)を行っていた。
厚生労働大臣の委任を受けた地方社会保険事務局長である奈良社会保険事務局長(以下「処分庁」という。)は、平成14年10月31日、平成15年8月7日、平成16年8月5日及び同年11月25日、歯科医師に対し、個別指導を行い、不適正な保険医療がされていることを指摘して、改善を求めた。
処分庁は、同年11月25日の個別指導後、患者調査を行い、その結果に基づき、平成17年2月17日、同月18日及び同月24日には監査を実施し、歯科医師から聴取を行った上、同日には歯科医師に患者個別調書へ弁明を記載させた。

2 取消処分に至る経緯及び取消理由

処分庁は、平成17年4月19日に行政手続法に基づく抗告人の聴聞手続を行った後、同月26日に奈良地方社会保険医療協議会からの答申を受けて、本件歯科医院の開設者である歯科医師に対し、同月27日付けで、同月28日をもって本件歯科医院の保険医療機関の指定を取り消す旨の処分をするとともに、保険医である歯科医師に対し、同月27日付けで、同月28日をもって保険医の登録を取り消す旨の処分をした。
本件処分は、@実際に行った保険診療に、行っていない保険診療を付け増して診療録に不実記載し、保険医療機関に診療報酬を不正に請求させた、A実際に行った保険診療を保険点数の高い別の診療に振り替えて診療録に不実記載し、保険医療機関に診療報酬を不正に請求させた、B自費診療して患者から料金を受領したにもかかわらず、同診療を保険診療したかのように装い診療録に不実記載し、保険医療機関に診療報酬を不正に請求させた、C監査や個別指導に対応するため、既存の診療録とは別に、既に請求済みの診療報酬明細書の診療内容に基づき新たな診療録を作成し、保険医療機関に持参させた、という保険医の不正の事実に基づいて本件処分がされた。

3 本件取消訴訟の提起

歯科医師は、平成17年8月31日奈良地方裁判所に対し、本件処分の取消しを求める訴えを提起し、係属中である。

4 取消処分後の歯科医師の経済状況

歯科医師は、取消処分及び本件歯科医院の保険医療機関指定取消処分を踏まえて、平成17年4月14日には奈良市保健所長に対し、また、同月18日には処分庁に対し、それぞれ、開設者変更を理由に、本件歯科医院につき同月30日をもって、診療所又は保険医療機関を廃止する旨届け出た。
歯科医師の子供の歯科医師は、同月18日処分庁に対し、自らが開設者となり、本件歯科医院と同じ場所で、それと同一の電話番号を使用して開設する歯科医院につき保険医療機関指定申請書を提出した。
歯科医師は、本件歯科医院にあった設備一式を子供に賃貸し、新たな歯科医院がそれを使用している。
歯科医師は、現在、自費診療のみを行う勤務医として勤務している。
子供は、歯科医師資格を取得したばかりで、診療経験は1年程度であり、保険診療を従前の歯科医師並みに行うことができない。また、歯科医院の経営実態からすると、保険診療が自費診療の呼び水となっており、歯科医師は、保険診療ができないことから、子供が保険診療を行った患者に自費診療を勧めることはできず、その結果、自費診療についても、十分な収入が得られない。
本件処分前の歯科医師の平成16年1年間の保険収入は、月平均453万円であるのに対し、本件処分後である平成17年5月から11月までの子供の保険収入は、月平均239万円、本件処分前の歯科医師の平成16年1年間の自費収入は、月平均224万円であるのに対し、本件処分後である平成17年5月から11月までの歯科医師及び子供の自費収入は、月平均256万円であり、前年比73%の収入にとどまっている。
平成17年1月ないし11月までの収入は、約35万円の赤字(前年同期約1550万円の黒字)である。
上記の経費には、金融機関からの借入額約1億2000万円の返済元本額(返済合計額は月額105万円であり、うち利息相当額は月額約23万円であるから、返済元本額は月額約82万円である。)や歯科医師らの生活費は含まれていない。

 争点及び裁判所の判断

争点1 重大な損害を避けるための緊急の必要の有無

【裁判所の判断】
歯科医師の収入額は、子供の収入額を含めても、本件処分後激減しているが、これは本件処分により歯科医師が保険診療を行うことができないことに主たる原因があるものと推認できること、平成17年1月ないし11月の収支状況からして、このままの状態が継続すると、生活費を捻出できず、ひいては、金融機関に対する返済にも支障が生じ、所有不動産に対する担保権が実行される事態となることも容易に想定される。
そうすると、歯科医師は、本案判決の確定に至るまでにその経営が破綻し、やがては病院の設備一式を失い、現在の規模、内容の診療所自体を廃止せざるを得ない事態に陥る可能性もあることは推認するに難くなく、このような損害は、金銭によって完全には償うことができないものというべきである。
単に収入額が一部減少する程度であればともかく、経済的な破綻にまで至る場合には、事業の継続という独立した利益が失われることになり、これは金銭によっては完全には償うことは困難であるというべきであるから、このような損害の回復の困難の程度、損害の性質及び程度並びに本件処分の内容及び性質を勘案すると、本件においては、行訴法25条2項の「重大な損害を避けるため緊急の必要」があるものと認めるのが相当である。

争点2 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれの有無

【裁判所の判断】
相手方は、本件のような違法性の高い事案において、取消処分の執行停止が認められることになれば、相手方に保険医の登録に関する取消権限を付与した趣旨を没却し、健康保険制度を初めとする医療保険制度に対する国民の信頼を失わせることになるから、取消処分の効力を停止することは、「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれ」がある旨主張している。
しかしながら、取消処分の効力を停止することが取消処分の理由となった法令違反の行為を是認することにはならないし、歯科医師が保険医として診療を継続するとしても、特段歯科医師が重大な医療過誤を犯したわけではなく、患者自身に経済的損害を与えたものでもないのであるから、そのこと自体が公共の利益に悪影響を及ぼすとは認め難い。また、法令
違反の行為については、適切な行政指導と監督による防止を期待することができる。
以上のような点を考慮すれば、歯科医師が取消処分の効力停止期間中保険診療を継続することから、直ちに公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとは認め難く、他にこれを認めるに足りる疎明はない。

争点3 本案について理由がないとみえるときの要件該当性

【裁判所の判断】
本来、本案について理由があるか否かは、本案訴訟において、主張立証が尽くされた上慎重に判断されるべき事柄であることはいうまでもない。したがって、行訴法25条4項の上記要件は、相手方において取消処分の適法要件の具備を疎明した場合に限られるものというべきである。
これを本件についてみると、保険請求内容と異なる記載がされているのは1名分だけであり、意図的に異なる記載をしたと認めているのは同人の平成16年5月28日の診療に関してだけであること、相手方が認定した不正請求の額は約85万円、不当請求の額は約13万円であり、歯科医師が自ら誤請求を認めているのはわずか数万円程度にすぎないことが認められ、これらの事実によれば、取消処分が行政裁量権を逸脱したと判断される余地がないとはいえず、本案訴訟の審理の結果を待つべきであるから、いまだ本案について理由がないとの疎明がされたとはいえず、この点に関する相手方の主張は採用できない。

 判決(決定):結論

1 原決定を取り消す。
2 奈良社会保険事務局長が平成17年4月27日付けで抗告人に対してした、抗告人の保険医登録を同月28日をもって取り消す旨の処分は、本案判決が確定するまでその効力を停止する。


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