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聴聞手続き(保険医取消)の続行の判例です。保険医取り消しの聴聞の手続きにお悩みの歯科医の方は、個別指導、監査(歯科)に強い弁護士にご相談下さい。

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個別指導、監査の判例(7):聴聞の度重なる続行

歯科の個別指導の書籍を出版し、歯科の指導監査に強い、弁護士の鈴木陽介です。

個別指導、監査には、弁護士を立ち会わせるべきです。


ここでは、仮の差止め申立て事件の判例をご紹介します。

取り上げる判例は、平成18年5月22日大阪地方裁判所の決定です。
説明のために、事案等の簡略化をしています。

指導監査については、以下のコラムもご覧いただければ幸いです。

【コラム】歯科の個別指導と監査の上手な対応法

 事案の概要

本案事件は、京都社会保険事務局長(以下「事務局長」という。)から健康保険法に基づき保険医の登録を受けている歯科医師が、事務局長が歯科医師に対し行おうとしている保険医登録取消処分(以下「本件登録取消処分」といいます。)は、実体的又は手続的に違法であり、かつ、本件登録取消処分がされることにより重大な損害を生ずるおそれがあるなどとして、事務局長は本件登録取消処分をしてはならない旨を命ずること(本件登録取消処分の差止め)を求めている抗告訴訟(差止めの訴え)です。
本件は、歯科医師が、本件登録取消処分がされることにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があるなどとして、本案事件の第1審判決の言渡しまで、事務局長は本件登録取消処分をしてはならない旨を命ずること(本件登録取消処分の仮の差止め)を求めている事案です。

事案の概要は以下のとおりです。

1 監査に至る経緯

歯科医師は、昭和52年3月に大学を卒業し、同年歯科医籍に登録された歯科医師である。
歯科医師は、昭和52年付けで、京都府知事から保険医の登録を受けた。
歯科医師は、昭和59年4月、歯科医院の開設者兼管理者に就任した。歯科医院は、昭和59年5月1日、京都府知事から保険医療機関の指定を受けた。
厚生労働大臣から委任を受けた事務局長は、平成15年3月5日、保険診療の質的向上及び適正化を図ることを目的として、歯科医院に対して個別指導を実施したが、歯科医院で診療を受けた者について診療内容及び診療報酬の請求について疑義が生じたなどとして、同指導を中止した。
事務局長は、平成15年9月9日から同月29日まで、歯科医院に係る患者について調査を実施した。
厚生労働大臣から委任を受けた事務局長(京都社会保険事務局職員)等は、歯科医院で診療を受けた者について、診療内容及び診療報酬の請求に関して不正又は著しい不当の疑いが生じたなどとして、平成15年10月20日から同年12月11日までの8日間(同年10月20日、同月21日、同月22日、同月31日、同年11月17日、同月20日、同月27日、同年12月11日)、歯科医院の開設者兼管理者である歯科医師及び歯科医師を含む保険医(退職後5年以内の者を含む。)等を対象として、健康保険、国民健康保険及び老人保健等に係る診療内容と診療報酬請求内容について、監査を実施した。

2 聴聞に至る経緯

監査を実施した各職員は、平成15年12月11日付けで、監査の結果、診療録の不実記載並びに診療報酬の付増請求(実際に行った保険診療に、行っていない保険診療を付け増して保険請求すること。)、二重請求(自費診療して患者から料金を受領したにもかかわらず、同診療を保険診療したかのように装い、診療報酬を不正に請求すること。)、振替請求(実際に行った診療内容より高点数の診療を行ったとして保険請求すること。)及び不当請求(保険給付外あるいは算定要件が満たされていない等にもかかわらず保険請求すること。)の事実が認められ、このことは健康保険法70条1項、72条1項、国民健康保険法40条1項、老人保健法26条等に違反し、不正請求及び不当請求により生じた医療費については各保険者に返還させ、行政上の措置については後日決定する、などの意見等を記載した社会保険医療担当者監査調査書を作成した。
そして、京都社会保険事務局の内議においては、歯科医院は重大な過失により不正又は不当な診療報酬の請求をしばしば行ったものであるから、歯科医院に対する処分としては保険医療機関の指定の取消しが相当である、歯科医師は重大な過失により不正又は不当な診療をしばしば行ったものであるから、歯科医師に対する処分としては保険医の指定の取消が相当である、などといった処分意見が示された。

3 聴聞が続行された経緯

事務局長は、平成16年3月29日付けで、歯科医師に対し、要旨下記の内容の聴聞を実施する旨通知した。
                記
@ 聴聞の件名 健康保険法に基づく処分
A 予定される不利益処分の内容 保険医療機関の指定の取消し及び保険医の登録の取消し
B 根拠となる法令の条項 健康保険法80条,81条
C 不利益処分の原因となる事実 平成15年10月20日から同年12月11日(8日間)まで実施した監査の結果、保険医療機関の事故として、付増請求、振替請求、二重請求等の事実が判明し、保険医の事故として、診療録に不実の記載をして保険医療機関に診療報酬を不正に請求させていたこと等の事実が判明した。
D 聴聞の期日 平成16年4月19日午後2時(なお、この期日はその後変更されて平成16年6月23日となった。)
E 聴聞の主宰者 厚生労働事務官京都社会保険事務局地方社会保険監察官

歯科医師代理人は、平成16年4月26日付けで、事務局長に対し、聴聞の通知書の不利益処分の原因となる事実の記載は、抽象的な治療行為及び保険請求に関わる行為を類型的に列挙したものであって、具体的な事実の摘示とはいえないから、不利益処分の原因となる事実が、どの患者に対しいつされた治療行為であるのかを具体的に明らかにされたい、などと記載した「不利益処分の原因となる事実についての求釈明の申請書」と題する書面を提出した。
監察官は、平成16年6月23日、歯科医師に対して本件聴聞(第1回)を実施した。歯科医師代理人は、同聴聞の期日において、事務局長(京都社会保険事務局職員)に対し、上記求釈明書と同旨のことを述べたが、事務局長は、それらの記載は抽象的ではなく、個別の事実認定は既に監査において終了している旨回答した。さらに,歯科医師代理人は、同期日において、監察官に対し、同日付けの「不利益処分の原因となる事実に対する意見陳述書」と題する書面(以下「本件意見陳述書」という。)を提出して、本件聴聞の通知書で指摘された不利益処分の原因となる事実の多くが事実と異なっているなどと主張し、事務局長に同書面に対して回答するよう求めた。しかし、これに対して事務局長(京都社会保険事務局職員)が直ちに回答することができなかったため、監察官は、本件聴聞の期日を続行することとした。

4 聴聞の終結

歯科医師は、平成16年8月10日、京都市長に対し、歯科医師の健康が常勤義務を果たせないことを理由に、同年7月31日付けで診療所としての歯科医院を廃止した旨届け出た。さらに、歯科医師は、同年8月20日、事務局長に対し、上記と同様の理由で、同年7月31日付けで保険医療機関としての歯科医院を廃止した旨を届け出た。
京都社会保険事務局保険課長は、平成16年9月15日付けで、歯科医師に対し、本件意見陳述書に対する回答を記載した「平成16年6月23日付「不利益処分の原因となる事実に対する意見陳述書」への回答」と題する書面を送付した。
監察官は、平成16年9月24日、歯科医師に対して本件聴聞(第2回)を実施した。歯科医師代理人は、同聴聞の期日において、監察官に対し、同日付けの「不利益処分の原因となる事実に対する第2回意見陳述書」と題する書面を提出して、事務局長が本件意見陳述書に対して十分な回答をしていないので、その点を詳細に回答するよう求めた。しかし、これに対して事務局長(京都社会保険事務局職員)は、これ以上回答することはなく事実は監査の結果のとおりである、申立人の弁明は承った旨述べたが、歯科医師側がその内容に納得しなかったため、監察官は、本件聴聞の期日を続行することとした。
監察官は、平成17年2月21日、歯科医師に対して本件聴聞(第3回)を実施した。歯科医師代理人は、同聴聞の期日において、事務局長に対して再度本件意見陳述書に対する十分な回答を求めたが、これに対して事務局長(京都社会保険事務局職員)が、事実は監査の結果のとおりであって事実誤認はなかった、ただ歯科医師の指摘する事項については回答するかどうかを検討する旨述べたため、監察官は、本件聴聞の期日を続行することとした。
歯科医師は、平成18年3月23日、本件登録取消処分の差止めを求める本案事件を提起し、同月31日、本件登録取消処分の仮の差止めを求める本件申立てをした。
監察官は、平成18年4月24日、申立人に対して本件聴聞(第4回)を実施したところ、事務局長がこれ以上回答することはない旨述べたことなどから、本件聴聞を終結した。

5 歯科医師の現状

歯科医師は、現在、保険医療機関である医療法人の歯科医院において、常勤の勤務医として歯科診療に当たっている。同医院には、平成18年4月11日時点で、常勤の勤務医として19名の歯科医師が、非常勤の勤務医として4名の歯科医師が保険医として登録されている。

 争点及び裁判所の判断

争点1 本案訴訟の適法性

【裁判所の判断】
仮の差止めの申立ては、本案訴訟である差止めの訴えが適法な訴えとして提起されていることをその適法要件としていると解される。
行政事件訴訟法は、差止めの訴えは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができるものとし、ただし、その損害を避けるため他に適当な方法があるときは、この限りでないと規定している。一定の処分又は裁決がされることにより損害を生ずるおそれがある場合であっても、当該損害がその処分又は裁決の取消しの訴えを提起して執行停止を受けることにより避けることができるような性質、程度のものであるときは、一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合には該当しないものと解すべきである。
本件について検討すると、本件登録取消処分がされることにより、歯科医師について財産的損害に加えて社会的評価ないし信用の低下に係る損害が生じるおそれがあるというべきである。
しかしながら、本件登録取消処分がされて公示、公表等されることにより、その時点で直ちに勤務先医療法人の退職を余儀なくされ、後に当該処分について執行停止がされた場合であっても、歯科医業を行うことにより収入を得るみちがもはや事実上絶たれるものとまで直ちに認めることは困難というべきである。本件登録取消処分がされることにより申立人に生じるおそれのある社会的評価ないし信用の低下に係る損害は、その性質上、必ずしも本件登録取消処分の取消しの訴えを提起して執行停止を受けることにより避けることができるような性質のものであると断ずることはできないが、保険医登録取消処分が直ちに当該歯科医師の歯科医師としての知識及び技能その他適性の欠如に結び付くものではなく、当該損害の内容、性質及び程度にもかんがみると、重大な損害に当たるということはできないものというべきである。
以上検討したところによれば、本案訴訟としての本件登録取消処分の差止めの訴えは、「一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合」の要件を欠く不適法な訴えというほかないから、本件仮の差止めの申立ては、本案訴訟としての適法な差止めの訴えの提起を欠くものとして、その余の点について判断するまでもなく、不適法であり、却下を免れない。

 判決(決定):結論

本件申立てを却下する。


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