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監査の欠席、監査の出頭拒否の正当理由の判例です。監査(歯科)の欠席にお悩みの歯科医の方は、個別指導、監査(歯科)に強い弁護士にご相談下さい。

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個別指導、監査の判例(6):監査の欠席、出頭拒否の正当理由

歯科の個別指導の書籍を出版し、歯科の指導監査に強い、弁護士の鈴木陽介です。

個別指導、監査には、弁護士を立ち会わせるべきです。


ここでは、保険医登録取消等処分取消請求事件の判例をご紹介します。

取り上げる判例は、平成20年1月31日大阪地方裁判所の判決です。
説明のために、事案等の簡略化をしています。

指導監査については、以下のコラムもご覧いただければ幸いです。

【コラム】歯科の個別指導と監査の上手な対応法

 事案の概要

京都社会保険事務局長(以下「処分庁」という。)から健康保険法に基づき保険医療機関の指定を受けた歯科医院の開設者であり、かつ保険医の登録を受けた歯科医師が、処分庁が歯科医師らに対して行おうとしている保険医療機関指定取消処分及び保険医登録取消処分(以下、併せて「本件各処分」といいます。)は、実体的又は手続的に違法であるなどと主張して、処分庁は本件各処分をしてはならない旨を命ずることを求める抗告訴訟(差止めの訴え)です。

事案の概要は以下のとおりです。

1 監査に至る経緯

歯科医師は、平成元年に歯科医師国家試験に合格し、同年5月に歯科医師として医籍登録され、同年6月14日、処分庁により、保険医の登録を受けた。
歯科医師は、平成3年10月1日、京都市において、「B歯科医院」を開設し、同日、処分庁により、保険医療機関の指定を受けた。
処分庁は、平成17年3月4日、歯科医師に対して、「社会保険医療担当者の個別指導の実施について(通知)」と題する書面を送付した。処分庁は、同月25日、歯科医師及びB歯科医院に対する個別指導を実施し、歯科医師に保険診療者のカルテ等を提出させたり、患者からの聞き取り調査を実施したところ、診療内容及び診療報酬の請求に関し、不正又は著しい不当の疑いを抱いたことから、個別指導を中止した。

2 第1回監査について

処分庁は、平成18年9月25日、歯科医師に対して、「社会保険医療担当者の監査について(通知)」と題する書面を送付し、同年10月3日及び4日各午前9時00分から午後5時00分まで監査を実施する旨の通知をした。
歯科医師の委任を受けた弁護士は、同年9月29日、処分庁に対して、「代理人就任通知兼監査期日変更申請書」を提出した。同申請書には、「出頭して答弁し、検査等を受ける所存でありますが、指定されました監査期日(平成18年10月3日及び翌4日)は、監査通知受領の1週間後で、且つ、診療日であり診療の予約が既に入っております。また、同通知書記載のとおり、過去5年間に当院に勤務したすべての保険医を同監査期日に集めることは至難のことであります。更に、当職代理人も、両監査期日とも既に裁判期日等が決まっており出頭することができません。以上の次第で、上記監査期日の変更を申請いたします。」と記載されていた。
弁護士は、処分庁から上記申請書に対する回答がなかったことから、同年10月2日、処分庁に対し、「監査期日の変更に関する再度のお願い」と題する書面を提出し、再度、監査期日の変更の申請をした。
処分庁は、同日、歯科医師に対し、監査対象者一覧表をファックスで送信し、その後、歯科医師に電話したところ、歯科医師は、前記の理由で監査期日に出頭することはできないと回答したことから、処分庁は、上記理由は、正当な理由とは認められない旨伝えた。
歯科医師は、同月3日の第1回監査期日に出頭しなかった。

3 第2回監査について

処分庁は、同月4日、歯科医師に対し、「社会保険医療担当者の監査について(通知)」と題する書面を送付し、同月12日午前9時00分から午後5時00分まで監査を実施する旨及び「正当な理由なく出頭に応じないときは、健康保険法80条5号及び81条2号により保険医療機関の指定取消、保険医の登録取消に該当し、行政処分を行うこととなる」旨の通知をした。
弁護士は、同月11日、処分庁に対し、「監査出頭及び立ち会い通知書」を送付し、歯科医師、関係当事者(従業員、勤務歯科医師等)及び弁護士が第2回監査に出席する旨並びに補佐人として歯科医師Eを同行する旨の通知をした。
歯科医師A、弁護士、前記個別指導時にB歯科医院の勤務医であったF保険医及び従業員4名は、同月12日午前8時50分、京都社会保険事務局に出頭し、これにE歯科医師が同行した。処分庁は、弁護士の監査への同席は認めたが、E歯科医師の監査への同席について、同医師が監査対象となる診療行為と関係のない者であり、監査に同席させることはできない旨を歯科医師らに説明し、同医師の監査会場への入室を認めなかったところ、歯科医師らは、監査会場へ入室することなく退場し、第2回監査も実施には至らなかった。

4 第3回監査について

処分庁は、同月12日、歯科医師に対し、「社会保険医療担当者の監査について(通知)」と題する書面を送付し、同月19日午前9時00分から午後5時00分まで監査を実施する旨の通知した。
弁護士は、同月15日、処分庁に対し、「監査通知に関する回答書」と題する書面を提出し、同書面において、歯科医師らが第2回監査を受けられなかったのは、処分庁が弁護士らの代理人としての立会権を否定し、E歯科医師の監査会場への入室を拒否したためであり、その責任は処分庁にあると申し立てるとともに、第3回監査に歯科医師Aが同行を予定しているE歯科医師の監査への同席を認めてもらえるのか否かについて照会した。
処分庁は、同月17日、弁護士に対し、上記照会に対する回答として、監査にE歯科医師の同席は認められず、このことを理由に監査に応じない場合は、取消処分の対象となるとの回答をした。
弁護士は、同月18日、処分庁に対し、「監査出頭に関するお伺い」と題する書面を送付した。その内容は、「歯科医師及び当職らの考えでは、監査手続には歯科医師等の専門家の立ち会いは認められるべきであり、これは歯科医師の防御権の問題であります。貴庁の歯科医師の権利を侵害する対応に承服できません。明日の監査への出頭はできません。歯科医師は、監査への出席・出頭を拒んだことは一度もありません。監査への出席出頭をできなくさせたのはあくまでも貴庁の頑なな態度であり、そのすべての責任は、貴庁が負うべきであります。」というものであった。
処分庁は、同日、B歯科医院に対して、監査対象者一覧表をファックスで送信した上、歯科医師に対して、第3回監査に出頭を求めるため電話をしたが、連絡はとれなかった。
歯科医師らは、同月19日、第3回監査に出頭せず、処分庁は、歯科医師に対して電話をしたが連絡はとれなかった。

5 聴聞手続きについて

処分庁は、歯科医師が監査への出頭に応じず、忌避した経緯を検討した結果、B歯科医院の保険医療機関の指定の取消し及び歯科医師の保険医の登録を取り消すことが相当であると判断した。
処分庁は、平成19年6月19日、歯科医師に対し、「聴聞通知書」と題する書面をそれぞれ送付した。同書面には、「あなたに対する下記の事実を原因とする不利益処分に係る行政手続法(平成5年法律第88号)の規定による聴聞を下記のとおり行いますので通知します。」と記載された上で、「予定される不利益処分の内容」として「保険医療機関の指定の取消及び保険医の登録の取消」、「根拠となる法令の条項」として「健康保険法第80条及び81条」、「不利益処分の原因となる事実」として「平成18年10月3日、4日及び同月19日に出頭を命じた監査に正当な理由もなく出頭せず、また平成18年10月12日に出頭を命じた監査において出頭はしたものの監査会場の入室を拒否し、監査を三度にわたって拒否したため」、「聴聞の期日」として「平成19年7月11日(水)」と記載されていた。
弁護士は、同年6月26日、上記聴聞期日の変更の申請をし、上記聴聞期日は、同年10月11日に変更された。
弁護士は、同年6月28日、「文書閲覧申請書」と題する書面を提出し、文書の閲覧に代えてコピーを同弁護士に送付して欲しい旨の申立てをし、処分庁は、同年7月6日、同弁護士に対して、内議資料及び社会保険医療担当者監査調書のコピーを送付した。
処分庁は、同年10月11日、歯科医師に対する聴聞を実施したが、聴聞予定時間内に手続が完了しなかったので、聴聞を続行した。

歯科医師は、同年9月13日、本件訴訟を提起した。

 争点及び裁判所の判断

争点1 重大な損害を生ずるおそれの有無

【裁判所の判断】
行政事件訴訟法37条の4第1項は、差止めの訴えは、一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができると定めている。「重大な損害」とは、それを避けるために事前救済を認める必要がある損害をいうと解すべきであり、当該損害がその処分後に執行停止を受けることにより避けることができるような性質のものであるときは、「重大な損害」には該当しないと解すべきである。
本件各処分により、B歯科医院において保険診療を行うことができなくなれば、来院する患者数は大幅に減り、保険診療はもとより、自由診療による収入も大幅に減ることが予想される。開設する歯科医院を、現状の形態のまま維持することは不可能であり、経営が破綻するおそれもあるというべきである。
もっとも、歯科医師は、本件各処分後に、その取消訴訟を提起し、併せて執行停止の申立をすることはできる。しかし、仮に執行停止がされたとしても、執行停止決定までに一定の日数が必要であるから、その間における保険診療はできず、患者に対し、保険診療ができないことを説明し、他の歯科医院を紹介したりする必要が生じる。報道機関にも発表され、厚生労働省のホームページにも、当該保険医療機関の名称、当該保険医の名前等が公表されるのであり、評価及び信用毀損の程度は大きい。したがって、本件各処分によって生じる損害を、取消訴訟の提起や執行停止などの事後的救済手段によって十分に回復することは困難であるというべきである。
歯科医師は、本件各処分がされることにより「重大な損害を生ずるおそれがある」といえる。

争点2 取消処分の違法事由の有無

【裁判所の判断】
健康保険法78条1項は、監査について定め、同法80条、81条は、保険医療機関の開設者や保険医等が監査に出頭しなかったことを保険医療機関の指定ないし保険医の登録の取消事由として定めている。もっとも、これらの各規定の趣旨に照らせば、保険医療機関の開設者や保険医が監査に出頭しないことに正当な理由があると認められる場合には、上記各取消事由には該当しないと解すべきである。
監査の目的は、行政庁が適切な措置を行うための情報収集にあり、迅速性が要請されることからすれば、被監査者が監査において第三者の立会いを求める権利ないし法的利益を有すると解することはできず、監査に第三者の立会いが認められるか否かは、厚生労働大臣の裁量に属するものと解すべきである。このように解したとしても、当該監査に基づいて不利益処分が行われる場合には、告知・聴聞の手続が前置され(行政手続法13条1項)、被監査者の防御の利益はかかる場面で図られることからすれば、被監査者に特段の不利益を与えるものではない。
本件監査における調査事項は、保険医療機関ないし保険医の業務と直接関係するものであるから、保険医療機関の開設者であり、かつ保険医である歯科医師らを補助するために他の歯科医師の立会いを認める必要性があるとはいえない。
また、監査においては、保険医療機関の患者の診療録等の多大な個人情報を扱うことになるが、歯科医師の守秘義務は、「その職務上取り扱ったことについて知り得た」ものに限られるため(刑法134条1項)、E歯科医師が本件監査で知り得た個人情報について守秘義務を負うとは解し難いことからすれば、処分庁が、E歯科医師の本件監査への立会いを拒
むことには合理的な理由がある。
本件において、E歯科医師の立会いを認める必要性があるとは言い難い上に、処分庁がその立会いを拒否したことに合理的な理由があることからすれば、処分庁がE歯科医師の立会いを拒否したことにその裁量権の逸脱濫用があったとは認められない。

歯科医師は、@処分庁が本件聴聞手続においてした本件一部閲覧拒否は行政手続法18条1項に違反し、その拒否理由の説明をしていないことが同法20条2項に違反すること、A聴聞主宰者が歯科医師及びその代理人の都合を考慮せず一方的に続行期日を指定したことが歯科医師の聴聞を受ける権利を侵害することから、本件各処分は違法であると主張するので検討する。
処分庁が書類等の閲覧を拒否したことが当該処分の取消事由となるのは、閲覧請求の対象となった書類等についての閲覧を認めないことに瑕疵があり、かつ、聴聞当事者の防御権の行使が実質的に妨げられたと認められる場合に限られると解すべきである。
本件聴聞手続における具体的な争点は、被監査者が監査において第三者の立会いを求める権利を有するか否かという法律解釈であったこと、しかるに、本件一部閲覧拒否部分に記載されている事項は、上記争点とは直接関係しないものであったことが認められるから、本件一部閲覧拒否によって歯科医師の防御権の行使が実質的に妨げられたとはいえない。
聴聞手続における続行期日の指定は、聴聞主宰者の専権に属し、続行期日の指定に当たり、当事者に事前確認するか否かは聴聞主宰者の裁量の範囲内の問題というべきである。そして、本件において、聴聞主宰者がその裁量権を逸脱濫用したことを窺わせるような事情はないことからすれば、聴聞主宰者が歯科医師に事前確認をせずに続行期日の指定をしたことが違法であるとはいえない。
歯科医師の上記@、Aの主張は採用できない。

 判決:結論

原告らの請求をいずれも棄却する。


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