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根管治療の失敗、不必要な抜髄に関する判例をご紹介します。歯科トラブル、歯科医療訴訟にお悩みの歯科医の方は、歯科医師のための弁護士、サンベル法律事務所にご相談下さい。

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歯科訴訟:根管治療の失敗と不必要な抜髄

根管治療のトラブルに強い歯科医師のための弁護士です。

根管治療に関する患者トラブルにお悩みの歯科医師の方は、迷わずご相談下さい。初期対応が肝心です。まず弁護士に相談しアドバイスを受けることを強くお勧めします。


弁護士鈴木が力を入れている歯科医院法務に関するコラムです。
ここでは、歯科訴訟の判例のご紹介、ご説明を致します。


取り上げる判例は、平成14年6月14日岡山地方裁判所の判決です。
なお、説明のために、事案等の簡略化をしています。

 事案の概要

歯科医師から歯科治療を受けた患者が、抜髄する必要のない歯髄を抜髄し、削る必要のない歯を削り、さらに不十分な根幹治療のため抜髄後の歯髄腔を細菌に感染させたなどと主張して、歯科医師に対し、689万5750円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求めた事案です。

事案の概要は以下のとおりです。

1 根管治療の概要と歯科医院の閉院

患者は、平成9年6月11日から平成10年5月15日まで、歯科医師による歯科治療を受けた。歯科医師は、次に記載する年月日に、患者の歯に対して抜髄処置(歯髄を除去する処置)を施し、その後、歯冠修復処置(歯冠を削り、その上から歯冠補填物を装着する処置)を施した。
ア 初診日である平成9年6月11日、左下5番、6番、7番の各歯。
イ 同年7月22日、左上2番、右上2番の各歯。
ウ 同年8月、右下1番、2番、3番の各歯。
エ 平成10年5月11日、左上3番、4番、5番の各歯。

患者は、最後に受診した平成10年5月15日の3、4日後の次の予約日に、歯科医院に赴いたところ、歯科医院は閉められており、それ以後、同歯科医院は再開されることはなく、患者に対する歯科医師の治療は、自然に終了した。
なお、同年6月8日、岡山県知事に対し、同月4日をもって歯科医院を休止する旨の医療法所定の届出がなされた。

2 閉院後の診療経過

患者は、平成10年6月10日から同年10月6日まで、別の歯科医院において、治療を受けた。
そして患者は、平成10年10月9日から,岡山大学歯学部附属病院において、治療を受けた。
患者は、右上8番の歯の痛みを訴えたところ、同病院第二口腔外科の医師は、この歯が齲触症であると診断し、同月12日、これを抜歯し、同月28日、患者の歯周疾患の治療のため、同病院の予防歯科に引き継いだ。そして、同病院の予防歯科の医師は、患者のすべての歯(右上8番、左上8番、左下8番は抜歯済み)につき、歯槽膿漏との診断をし、ブラッシングなどの指導にあたった。
患者は、岡山大学歯学部附属病院において、左上3番、右下5番の各歯、及び、他に治療を要する歯の治療を希望した。
その後の同病院における主な治療内容は次のとおりである。
@ 左上3番、右下5番の各歯
同年12月7日、同病院の医師は、これらの歯が歯根膜炎であると診断し、複数回の感染根管処置、根管貼薬処置を経て、平成11年1月19日、根管充填を行った。また、同年5月20日、右下5番の歯に全部鋳造冠が装着された。
A  右下6番の歯
平成10年12月21日、同病院の医師は、右下6番の歯が歯根膜炎であると診断し、鋳造歯冠を除去した上、複数回の感染根管処置、根管貼薬処置を経て、平成11年2月26日、根管充填を行った。また、同年5月20日、5分の4冠が装着された。
B  左上2番の歯
同年2月26日、同病院の医師は、左上2番の歯が歯根膜炎であると診断し、複数回の感染根管処置、根管貼薬処置を経て、同年3月15日、根管充填を行った。また、同年4月16日、硬質レジンジャケット冠が装着された。
C  右上2番の歯
同年3月23日、同病院の医師は、右上2番の歯が歯根膜炎であると診断し、複数回の感染根管処置、根管貼薬処置を経て、同年4月9日、根管充填を行った。また、同年4月16日、左上2番の歯とともに、硬質レジンジャケット冠が装着された。
D  左下5番、6番の各歯
同年4月16日、同病院の医師は、左下5番、6番の各歯につき、鋳造歯冠脱離による歯根膜炎であると診断し、複数回の感染根管処置、根管貼薬処置を経て、同年6月22日、根管充填を行った。また、同年10月1日、左下5番の歯にインレーが、左下6番の歯に全部鋳造冠がそれぞれ装着された。
E  左下7番の歯
同年6月22日、同病院の医師は、左下7番の歯につき、歯根膜炎であると診断し、複数回の感染根管処置、根管貼薬処置を経て、同年7月16日、根管充填を行った。また、同年12月3日、全部鋳造冠が装着された。
F  左下1番の歯
患者は、平成12年の間は、ほぼ1か月に1度の割合で岡山大学歯学部附属病院の予防歯科に通院し、ブラッシングの指導等を受けていた。そして、平成13年3月7日、同病院の医師は、左下1番の歯につき、歯根膜炎であると診断し、鋳造冠を除去した上、複数回の感染根管処置、根管貼薬処置を経て、同年5月2日、根管充填を行った。

 争点及び裁判所の判断

争点1 債務不履行・不法行為の有無

【裁判所の判断】
医療行為、特に本件において問題となっているような抜髄という行為は、他人の身体に対する侵襲行為という側面を否定することはできない。したがって、資格を有する歯科医師が、患者の客観的な病状に対応して、医学的に認められた方法、技術水準をもってこれにあたったときに限り、正当な業務行為となるべきものである。さらに、訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである。これによると、歯科医師のとった治療法が、患者の客観的な病状に対応していない、あるいは、医学的に認められた方法、技術水準をもってしたのではないことについて、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得る程度の立証がされれば、歯科医師の債務不履行・不法行為責任は認められるというべきである。
そこで、患者の症状が医学的に抜髄を要するものであったか否か、歯科医師が行った抜髄が、医学的な技術水準をもってされたか否かについて、検討する。
まず、証拠によれば、左上2番、右上2番、右下1番、2番、3番の各歯が、抜髄を要するものではなかったことを優に推認することができる。
また、抜髄法では、根部歯髄の除去の後、根管長の測定、根管拡大・形成、根管清掃、根管貼薬の一連の作業が行われ、一般には、これらの作業の後、仮封がされて、後日、同一の作業が何回か繰り返され、レントゲン写真などで症状の回復が確認された後に、根管充填、歯冠形成が行われる。したがって、これらの一連の作業をふむことが、現時点における医学的な技術水準であるということができる。歯科医師が抜髄の処置を講じた多くの歯について、後日、岡山大学歯学部附属病院において、根管開放、根管治療の措置が講じられているところ、抜髄法においては、充填作業の完了時に患部が完全な無菌状態になることが、現時点における医学的な技術水準であるというべきであるから、歯科医師が充填処置を講じた後、わずか1ないし3月余りで他医で根管開放、根管治療の措置が講じられたこれらの歯については、歯科医師による充填作業の完了時に完全な無菌状態を保っていなかったことは明らかである。
歯科医師が行った抜髄はすべて、現時点における医学的な技術水準をもってしたものではなかったというべきであり、歯科医師は、患者に生じた損害に対して、債務不履行・不法行為による損害賠償責任を負担すべきである。

争点2 患者の損害

【裁判所の判断】
合計        283万円
 内訳 治療費    23万円
    慰謝料   200万円
    弁護士費用  60万円

 判決:結論

被告は、原告に対し、金283万円及びこれに対する平成10年5月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。


根管治療の失敗、根管治療のトラブル、根管治療の訴訟、裁判に悩んでいる歯科医の方は、迷わずお電話を下さい。診療録などの証拠及び患者の主張内容などを十分に確認聴取した上で、取るべき対応、留意点などを具体的にアドバイス致します。


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