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補綴治療の歯科訴訟の判例をご紹介します。歯科トラブル、歯科訴訟、歯科裁判にお悩みの歯科医の方は、歯科医師のための弁護士、サンベル法律事務所に迷わずご相談下さい。

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歯科訴訟:補綴治療の失敗

補綴治療のトラブルに強い歯科医師のための弁護士です。

補綴に関する患者トラブルにお悩みの歯科医師の方は、迷わずご相談下さい。初期対応が肝心です。まず弁護士に相談しアドバイスを受けることを強くお勧めします。

弁護士鈴木が力を入れている歯科医院法務に関するコラムです。
ここでは、歯科訴訟の判例のご紹介、ご説明を致します。


取り上げる判例は、平成23年9月22日東京地方裁判所の判決です。
なお、説明のために、事案等の簡略化をしています。
判決の原文は、裁判所のホームページ上に公開されており、以下となります。
・ 判例:補綴治療の失敗

 事案の概要

歯科医院の歯科医師から補綴治療を受けた患者が、その治療には、義歯やブリッジの選択が不適切であったこと、強度に問題のある歯冠修復材料を使用したこと、十分なクリアランス(対合歯と欠損部位との垂直的距離)を取らなかったこと、必要がないのに前歯を切削したこと、歯肉に不適合な冠を製作したことなどの過失があったと主張して、812万9411円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求めた事案です。

事案の概要は以下のとおりです。

1 初診時の患者の口腔内状況

患者(昭和44年生)は、平成13年7月7日、歯科医院を初めて受診し、初診時において、右上2番、4番ないし6番、7番あるいは8番、左上4番、5番、8番、右下6番、8番、左下7番は欠損歯であった。

2 右上歯列の補綴治療

歯科医師は、患者の右上歯列について、平成14年12月10日、右上3番、8番を支台歯とする、右上2番ないし8番のコーヌスクローネ義歯(いわゆる部分入れ歯の一つであり、残っている歯に金属冠を被せ、その上に入れ歯を装着する方式を採るものをいう。)を装着した。患者は、歯科医院に対し、同日、その費用として31万5000円を支払った。
平成15年2月7日、上記コーヌス義歯が脱離し、その後も何度も脱離及び破折が繰り返された。
平成19年9月10日、右上3番の歯根が破折した。

3 左上歯列の補綴治療

歯科医師は、左上歯列について、平成14年6月6日、左上2番、3番、7番、8番を支台歯とする、左上2番ないし8番の仮ブリッジを装着した(ブリッジとは、少数歯欠損で、しかも欠損部の両側に天然歯等が存在する場合に、それらを連結する形で適用され、咬合力の負担を顎堤に求めない補綴物をいう。歯牙欠損部を補綴する橋体とこれを両側で支える橋脚及び両者を結合する連結部から構成される。)。患者は、歯科医院に対し、同日、その費用として7万3500円を支払った。
平成15年3月25日、上記仮ブリッジが脱離し、その後も何度も脱離及び破折が繰り返された。

4 右下歯列の補綴治療

歯科医師は、右下歯列について、平成14年8月1日、右下5番、7番を支台歯とする、右下5番ないし7番のブリッジを装着した。歯科医師は、このブリッジの材料に、硬質プラスチック素材であるグラディアという製品を使用した。患者は、歯科医院に対し、同日、その費用として12万6000円を支払った。

5 左下歯列の補綴治療

歯科医師は、左下歯列について、平成14年7月5日、左下5番、6番を支台歯とする、左下5番ないし7番の遊離端ブリッジ(ダミーを欠損部に延長した形態のブリッジであり、延長ブリッジのことである。)を装着した。患者は、歯科医院に対し、同日、その費用として25万2000円を支払った。
平成16年6月5日、上記遊離端ブリッジがコア(土台)ごと脱離した。
平成17年9月12日、上記遊離端ブリッジのメタルボンド(被せ物や差し歯の全体をセラミック材料(陶器材料)で覆い、内側を金属で補強したものを使用する審美歯科治療)のセラミック部分が破折した。
平成17年12月17日、上記遊離端ブリッジが脱離した。
平成19年3月28日、左下6番の歯根破折が確認された。

6 前歯の切削

歯科医師は、右上1番、左上1番、右下1番、左下1番を切削した。

7 左上7番、8番、右上8番の冠製作

歯科医師は、患者の左上7番、8番について、FCK(フルキャストクラウン。臼歯全体を覆う金属の被せ物のことである。)を装着した。
歯科医師は、患者の右上8番について、平成14年11月9日、PGA(白金加金の金属)の冠を装着した。

 争点及び裁判所の判断

争点1 右上歯列の補綴治療に関する過失及び因果関係

【裁判所の判断】
歯科医師が、補綴物を製作、装着する際には、従前の歯牙、義歯及び口腔の性状並びに咬合の状況及び態様等を精査考慮し、その患者に適合し、適切な形状の補綴物を製作して装着すべき一般的な注意義務を負っており、その中でもコーヌス義歯の適応については、支台の選択や義歯の設計等について特に慎重に判断すべき注意義務を負っている。
本件歯科医師は、構造上の欠陥のあるコーヌス義歯を患者の右上歯列に装着するという過失によって、コーヌス義歯やその支台歯の脱離、破折、右上3番の歯根破折を生じさせたものと認められる。

争点2 左上歯列の補綴治療に関する過失及び因果関係

【裁判所の判断】
歯科医師が、補綴物を製作、装着する際には、従前の歯牙、義歯及び口腔の性状並びに咬合の状況及び態様等を精査考慮し、その患者に適合し、適切な形状の補綴物を製作して装着すべき一般的な注意義務を負っており、その中でもブリッジの適応については、支台の選択や義歯の設計等について特に慎重に判断すべき注意義務を負っている。
本件歯科医師は、構造上の欠陥のある仮ブリッジを患者の左上歯列に装着するという過失によって、仮ブリッジやその支台歯の脱離、破折を生じさせたものと認められる。

争点3 右下歯列の補綴治療に関する過失及び因果関係

【裁判所の判断】
歯科医師が、強度の点で問題のあるグラディアについて、臼歯部への使用を検討する際には、強度の高い材料であるメタルボンドなど、他の歯冠修復材料の選択の可能性を十分に考慮し、その適応について慎重に判断すべき注意義務を負っている。また、クレンチングのある患者に対してグラディアを使用した場合には破損を生じやすく、グラディアの使用説明書においても、クレンチングを伴う症例には禁忌とされていることが認められる。したがって、歯科医師は、クレンチングのある患者に対してはグラディアの使用を避けるべき注意義務を負っている。
本件歯科医師は、クレンチングのある患者の右下歯列にグラディアを用いたブリッジを装着し、しかも十分なクリアランスを確保しなかったという過失によって、右下5番の咬合面の破折を生じさせたものと認められる。

争点4 左下歯列の補綴治療に関する過失及び因果関係

【裁判所の判断】
歯科医師は、対合歯が挺出するおそれがあり、それを防止する必要がある場合など、特段の事情がある場合を除き、遊離端ブリッジの使用を避けるべき注意義務を負っているものと解すべきである。
担当の歯科医師は、構造上の欠陥のある遊離端ブリッジを患者の左下歯列に装着するという過失によって、上記遊離端ブリッジやその支台歯の脱離、破折、左下6番の歯根破折を生じさせたものと認められる。

争点5 前歯の切削に関する過失及び因果関係

【裁判所の判断】
歯科医師は、必要不可欠な場合に最終的手段として行う以外には、自然歯の切削を回避すべきこと、自然歯であってもメタルボンドであっても、自然な歯の形態とかけ離れた切削を行うことは審美の観点から問題があり、メタルボンドについては冠を作り直すなどして、可能な限り切削を回避すべきことが認められる。
本件歯科医師は、患者の右上1番、左上1番、右下1番、左下1番について必要性を欠く切削を行ったという過失によって、その形状をV字型に改変するという審美的な問題を生じさせたものと認められる。

争点6 左上7番、8番、右上8番の冠製作に関する過失及び因果関係

【裁判所の判断】
歯科医師は、冠の製作について、冠の縁が歯肉に適合するよう製作すべき注意義務を負っている。
本件歯科医師が注意義務に違反して不適合な冠を製作したなどと認めるに足りる証拠はない。

争点7 損害の存否

合計       334万1800円
 内訳 治療費  201万1850円
    交通費    1万4700円
    慰謝料  110万0000円
    診断書作成料   5250円
    弁護士費用 31万0000円

争点8 素因減額の要否

【裁判所の判断】
患者にクレンチングの素因があるからといって、患者に生じた義歯の離脱、破折は、もっぱら本件歯科医師が作成した義歯の構造に問題があったことを原因とするものであり、本件歯科医師が患者にクレンチングの有無について確認しなかったことも考慮すると、患者に損害の全部を賠償させることが公平を失するなどということはできない。

争点9 過失相殺の要否

【裁判所の判断】
歯科医師は、歯科医療の専門家として、患者からの希望が出された治療方法であっても、これが不適切なものであればこれを行うべきではなく、その点を患者に対して十分に説明して納得を得られるようにすべきであるところ、担当の歯科医師から患者に対して治療内容に関する十分な説明がされたとは認め難いこと、患者が自己の方針に固執して実際に行われた治療を依頼したなどとは認められない。
また、患者は、平成16年以降、度々長期間にわたって歯科医院に来院しないことがあったものと認められるが、患者がこのような対応をするに至ったのは、本件歯科医師の治療の結果が思わしくなく、満足な説明もないまま長期間にわたって通院を余儀なくされ、治療継続への熱意が失われたことによるものとうかがわれるのであって、この点について患者に落ち度があると評価するのは相当でない。
過失相殺の対象となるような落ち度が患者にあったものとは認められない。

 判決:結論

被告は、原告に対し、344万1800円及びこれに対する平成21年7月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。


補綴治療の失敗、補綴のトラブル、補綴治療の訴訟、裁判に悩んでいる歯科医の方は、迷わずお電話を下さい。診療録などの証拠及び患者の主張内容などを確認聴取した上で、取るべき対応、留意点などをアドバイス致します。


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