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根管治療での穿孔と断髄の歯科訴訟の判例をご紹介します。歯科トラブル、歯科訴訟、裁判にお悩みの歯科医の方は、歯科医師のための弁護士、サンベル法律事務所にご相談下さい。

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歯科訴訟:根管治療での穿孔と不必要な断髄

根管治療のトラブルに強い歯科医師のための弁護士です。

根管治療に関するトラブル、患者クレームにお悩みの歯科医の方は、迷わずご相談下さい。初期対応が肝心です。まず弁護士に相談しアドバイスを受けることを強くお勧めします。

弁護士鈴木が力を入れている歯科医院法務に関するコラムです。
ここでは、歯科訴訟の判例のご紹介、ご説明を致します。


取り上げる判例は、平成17年2月25日東京地方裁判所の判決です。
なお、説明のために、事案等の簡略化をしています。

 事案の概要

根管治療を受けブリッジを新しいものに付け替えた患者が、下顎右6番の歯の痛みがなくならず、結局抜歯することになったのは、歯科医師が右下6番の根管治療の際に誤って穿孔した過失及び右下8番について不必要な断髄及び不完全な根管治療を行った過失によるものであるとして、654万1834円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求めた事案です。

事案の概要は以下のとおりです。

1 右下6番の根管治療の治療経過

患者(昭和34年10月12日生まれの女性)は、東京都港区の歯科医院を受診し、歯科医師は、平成11年2月16日、右下6ないし8番に以前から装着されていたブリッジを除去するとともに、右下6番について、歯の中の土台となっている金属部分を除去し、平成11年2月19日から平成11年11月24日までにかけて、その根管の治療を行った。
歯科医師が係る治療を開始した際、右下6番は、前医により既に根管の治療がされ、根管充填材が充填されている状態であった。歯科医師は、平成11年2月19日以降毎月数回患者を来院させ、根管充填材をクロロフォルムによって少しずつ溶かし、溶けて接着剤のような粘性の液状になった根管充填材を20番のリーマーに絡ませるようにして根管から除去していった。右下6番遠心根については、上記のように根管充填材を除去していったところ、根尖部から根管内に排膿があった。右下6番近心舌側根についても、平成11年3月3日、根管内に膿が出てきたことを確認した。右下6番近心頬側根については、前医による根管充填の形跡もなく、歯科医師が根管の拡大を試みても途中で閉塞した状態となっていた。歯科医師は、無理に開通を試みると穿孔等の危険があると判断し、根管の拡大を中止した。歯科医師は、右下6番遠心根及び近心舌側根について、根尖部が開通したことを確認した後、少しずつ時間をかけて、リーマーによって根管を拡大した。歯科医師は、貼薬を経て、平成11年11月24日、右下6番について根管充填措置を行った。

2 右下8番の抜髄及び根管治療の治療経過

歯科医師は、患者の右下4ないし8番のブリッジを設置しようとしていたところ、支台となる4、6及び8番のうち、8番の歯の上部は他の歯より高い位置にあった。歯科医師が患者に対して上記ブリッジを設置することを説明した当時、患者の右下5及び7番は、既に存在しなかった。歯科医師は、平成11年9月8日、右下8番の歯冠部を除去し、虫歯及び古い接着剤を削り取った上、麻酔して抜髄した。右下8番を治療する際、根管部が閉塞していた。
右下8番に対する根管治療のうち、近心根については歯冠部の神経を部分的に抜くにとどめて根管内の治療は行わず、遠心根については神経を抜いたものの、リーマーが入る範囲で拡大し、その範囲で根管充填を行うにとどめた。
歯科医師は、右下4ないし8番のブリッジの作製に当たり、平成11年12月13日、右下4ないし8番について歯型を取り、平成11年12月21日、仮歯の装着及びクリーニングを行った。歯科医師は、右下6番について、平成12年1月12日から平成12年12月18日にかけて、かみ合わせの調整等を行い、平成13年2月7日、右下4ないし8番にブリッジを装着した。

3 その後の右下6番及び右下8番の経過

右下6番のレントゲン写真上、平成8年5月1日ないし平成10年12月8日においては、近心根の中心部に根管充填剤を示す白色の部分が直線状に存在するが、平成11年2月23日においては、近心根の中心部が黒色に変わっており、同黒色部は直線状に存在する。他方、平成11年11月24日ないし平成13年6月29日においては、近心根の中心部に再び根管充填材を示す白色の部分が写っているところ、この白色部分は、近心根のうち上下方向の中心付近から左側へ逸れ、遠心根側の側壁に到達している。他方、右下6番の髄床底付近においては、上記のような白色部分は見当たらない。
患者は、右下6番の治療開始から右下4ないし8番にブリッジを装着した後に至るまで、右下6番に断続的に痛みや腫れが生じたと陳述しているものの、それが右下6番の部分のみに生じたか否かは明確でないし、自覚症状の全てを歯科医師に伝えたか否かも明らかでない。
患者は、平成13年10月12日、友人の紹介により、他院の歯科医師に右下6番についての診察を受け、係る歯科医師は、平成14年1月21日、病院に対して紹介状をしたため、右下6番に関し、慢性歯槽膿瘍、根分岐部髄床底への穿孔の疑い及び近心根遠心壁への穿孔の疑いがあるとの情報を提供した上で診断書の発行を求めた。これに対し、病院は右下6番についてデンタルレントゲンを撮影し、病院の歯科医師は、平成14年1月29日、病名が右下6番の根分岐部病変であることを、附記として「上記病名の原因として歯根(近心根)の破折が疑われます」との旨をそれぞれ記した診断書を発行した。他院の歯科医師は、平成14年10月1日、患者の右下6番を抜歯した。
右下8番については、レントゲン写真上透過像が認められず、患者もこの歯を特定しての痛み等は特に訴えていない。

 争点及び裁判所の判断

争点1 右下6番の根管治療で誤って穿孔し処置を怠った過失の有無

【裁判所の判断】
歯科医師はリーマーを用いて右下6番近心根を拡大治療していたのであるが、根管の拡大を経て根管充填材の充填が終了した後には、レントゲン写真上、根管充填材の充填終了前には存在しなかった近心根の中心部に根管充填材を示す白色の線が存在するところ、その線が近心根の遠心壁へ到達していることは明らかである。このことと、抜歯後の右下6番の近心根の根管側壁のうち上下方向の中心部分に穿孔があることが明らかであることを併せ考えれば、この穿孔は、前医による根管治療時ではなく、被告歯科医師による根管治療時に生じたものではないかとの疑いが生ずるところである。
髄床底付近に関しては、穿孔を疑わせる徴候がレントゲン写真上見受けられないのに加え、病院の歯科医師は、他院の歯科医師から髄床底の穿孔の疑いがあるとの情報を提供されていながら、独自にデンタルレントゲンを撮影した上で、髄床底の穿孔の事実を診断書に記さなかったのである。証拠上、右下6番の髄床底に対して被告歯科医師が穿孔したとの事実を認めることができない。
以上によれば、歯科医師が右下6番の根管治療の際、その髄床底に穿孔させた事実は認められないものの、近心根の遠心壁に穿孔した疑いは容易に払拭できないところである。もっとも、仮に右下6番近心根に穿孔が生じたとしても、そのこと自体によって患者に新たな痛み等の症状が発生したとは認められないのであるから、この穿孔によって右下6番の状態が悪化して抜歯せざるを得なくなったことが認められない場合には、当該過失による損害の発生がないこととなるばかりか、穿孔に対する適切な処置を怠った過失もないといわざるを得ない。そこで、歯科医師が右下6番近心根を誤って穿孔させたか否かの判断は留保し、穿孔により損害が発生したか否かについて争点3で判断する。

争点2 右下8番の根管治療で不必要に神経を除去し不完全な根管治療を行った過失の有無

【裁判所の判断】
右下4ないし8番にブリッジを設置するに当たっては右下8番を支台とする必要があったし、右下8番の根管は閉塞状態であったところ、狭窄根管の場合や保存に適さないと考えられる場合は断髄の適応があり、右下8番について歯の表面を削ることは不可避であるが、歯の表面を削る以上、それによる冷水痛等の不都合を避けるために断髄することは一般的な処置であると認められる。右下8番に特段の症状が生じていないことからすると、右下8番については、必要な治療をした結果、特段の不都合もなく経過しているというべきであるから、治療が不完全であるとは言えない。
右下8番の根管治療において、必要のない神経を除去し、また、不完全な根管治療を行った過失は認められない。

争点3 過失による損害の発生の有無

【裁判所の判断】
右下6番の近心根周辺及び近心根と遠心根との間付近のレントゲン写真上の所見は、右下6番の根管治療前後を通じて次のように変化していることが認められる。
すなわち、根管治療開始前から近心根根尖部と根分岐部の2か所に病変を表す骨吸収像が認められたところ、このうち近心根根尖部の病変が徐々に上方に広がり、根管治療開始前には両者が連続した病変となっていた。この状態は、根管治療中から新たなブリッジ装着のころまでそれほど変化がなかったが、ブリッジ装着後には骨吸収像が薄くなり始め、近心根に近接した部分は、より遠い部分とは明らかに異なった不透過像に近い所見を示すようになった。
係るレントゲン写真は、右下6番近心根において歯科医師による根管治療後に骨の再生が開始、進行していることを示しており、患者は、右下6番の根管治療開始後、それまでと異なった痛みや腫れを特段訴えていないことも踏まえれば、仮に歯科医師が誤って右下6番近心根の遠心壁に穿孔していたとしても、結果として右下6番近心根は回復傾向にあった可能性がうかがわれる。
したがって、仮に歯科医師に過失があったとしても、それによる損害の発生を認定する証拠はなく、歯科医師の穿孔行為により損害が発生したと認めることはできない。

 判決:結論

原告の請求を棄却する。


根管治療のトラブルやクレーム、根管治療の訴訟、裁判に悩んでいる歯科医の方は、迷わずお電話を下さい。診療録などの証拠及び患者の主張内容などを十分に確認聴取した上で、取るべき対応、留意点などを具体的にアドバイス致します。


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