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診療報酬の不正請求の隠ぺいに関する歯科訴訟の判例をご紹介します。歯科トラブル、歯科訴訟、歯科裁判にお悩みの歯科医の方は、歯科医師のための弁護士、サンベル法律事務所に迷わずご相談下さい。

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歯科訴訟:診療報酬不正請求の隠ぺい工作

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弁護士鈴木が力を入れている歯科医院法務に関するコラムです。
ここでは、歯科訴訟の判例のご紹介、ご説明を致します。


取り上げる判例は、平成17年7月5日甲府地方裁判所の判決です。
なお、説明のために、事案等の簡略化をしています。
判決の原文は、裁判所のホームページ上に公開されており、以下となります。
・ 判例:診療報酬不正請求の隠ぺい

歯科の個別指導、監査に悩んでいる歯科医の方は、良い効果が期待できますので、歯科の指導、監査に詳しい弁護士への速やかな相談を強くお勧めします。個別指導、監査においては、弁護士を立ち会わせるべきです。詳しくは、以下のコラムをご覧いただければ幸いです。
・ 歯科の個別指導と監査

 事案の概要

テレビ局が山梨県内ニュースにおいて放送した、山梨県歯科医師会会員であった歯科医師による診療報酬の不正請求事件に対する同歯科医師会の対応についての放送内容が、一般視聴者に対し、同歯科医師会の会長であった歯科医師が上記診療報酬の不正請求の事実を監督官庁に発覚することをおそれて隠ぺい工作に走ったかのような、事実とは異なる印象を与えるものであったことから、同歯科医師の名誉が著しく毀損され、多大な精神的損害を被ったとして、同歯科医師が、謝罪文の交付並びに2000万円の慰謝料及びこれに対する遅延損害金の支払いを求めた事案です。

事案の概要は以下のとおりです。

1 診療報酬の不正請求についての事実経過

不正請求事件に関して、A歯科医師に対し、山梨社会保険事務局と山梨県福祉保健部による個別指導と監査が平成12年7月から平成13年1月にかけて実施された。山梨社会保険事務局は、健康保険法、国民健康保険法等の規定に基づき、個別指導、監査への学識経験者の立会いが必要であると判断し、県歯科医師会に対し立会者の派遣を要請した。この要請により、歯科医師会の会長であった原告歯科医師は、本件の不正請求事件のことを知り、県歯科医師会として、医療保険問題に精通している歯科医師Bを立会者として派遣することとした。
歯科医師Bは、平成12年7月12日に行われた個別指導、同年11月29日に行われた1回目の監査、平成13年1月10日に行われた2回目の監査に立ち会った。
歯科医師Bは、その過程で、A歯科医師及びその家族に直接会い、歯科医師を自主的に廃業することを勧めた。
監査の結果は、平成13年3月8日付けで県歯科医師会に通知された。
A歯科医師は、指摘のあった診療報酬の不正請求分についてこれを認めて返還する意思を示したほか、歯科医師を廃業することとし、保険医療機関の指定の辞退をするとともに保険医の登録の抹消を求めた。そのため、A歯科医師に対する取消処分その他の行政上の処置がとられることはなく、当然、それが公表されることもなかったので、平成13年の時点においては、本件不正請求事件が報道されることもなかった。

2 診療報酬の不正請求についてのマスコミ報道と歯科医師会の対応

不正請求事件は、平成14年7月18日のテレビニュースや、新聞報道などによって報じられ、初めて明るみに出た。
原告歯科医師は、平成14年7月27日午後5時から開催された県歯科医師会の平成14年臨時総会の冒頭あいさつにおいて、下記のとおりの発言をした。
                          記
「今月の18日にニュースで、2年も前に終わったことが報道されました。」
「私たち執行部が始まりまして、同じような事件が2つございました。これはやはり業界として未然にマスコミにも、一般の人たちにも知られないように対応するのが、私たちの務めだというふうに認識しまして、行政と、また県行政また保険事務所等の対応をして未然に防げたと思っていた。しかも、本人もそれなりの犠牲を払って、社会的制裁を受けているということです。それがどうしてああいう形で出たのか。私は一般の人たちから出たとは思えません。多分会員の中のだれかから漏れたのでは、そういうふうに私は思えてなりません。これはやはりゆゆしき問題だと思います。どうして、2年も前のことが今ごろになって出るのか。本当に残念だと思います。」
「このことが、私たちの業界にとってプラスになることは一つもありません。全部マイナスです。全員にとってマイナスですし、日本の歯科医療界にとってもマイナスのことです。それは一個人のマイナスということで仕方のないことですけれども、それを未然に防げたのに、どうして出てきたか。本当に残念でなりません。ぜひ、今後とも会員の中の先生方、また自分たちもそういう会の中の危惧を、第三者に話すことがないように、団体としての団結を図っていただきたい。」

3 歯科医師会の対応を批判するマスコミ報道

テレビ局は、平成15年6月5日、甲府放送局の山梨県内ニュースにおいて、昼のニュースとして放送部分1を、夕方のニュースとして放送部分2を報じ、その後夕方と夜の2回にわたって、放送部分2と同じニュースを報じた。
放送部分1においては、平成14年7月に甲府市の歯科医師が架空の診療報酬請求をしていたことが発覚したことに関連して、本件不正請求事件がマスコミに発覚した直後に開かれた県歯科医師会の臨時総会において、「当時の幹部」が「不正請求の発覚について、知られないようにするのがつとめだと認識し、社会保険事務局など行政に何回となく対応したので未然に防げたと思っていたのに残念だ」と発言した内容に触れて、「問題の隠ぺいを図っていたことを示唆する発言をしていた」として伝え、さらに、「当時の幹部」の発言が「事実自体をもみ消そうとしたわけではなく、業界の責任としてどうすれば事実を公にしないで処分を軽くできるかを考え、社会保険事務局に相談して対応を取った」というものであると付加している。さらに、当該幹部の発言に対し、県歯科医師会の会員から本来不正請求をなくすことに力を入れるべきでモラルに反するとの批判が上がっていること、山梨社会保険事務局は、時間が経過していて確認ができないことを伝えるものである。
放送部分2においては、本件不正請求事件が発覚したことについて、当時の県歯科医師会幹部が臨時総会の席上で、「不正請求が知られないように行政に対応したのに残念だ」として、「問題の隠ぺいを図ったことを示唆する発言をしていたことが分か」ったと報じた上で、本件放送当日開催された理事会において、県歯科医師会の新会長が「不正請求については本来事実を深く受け止めて再発防止を徹底するのが当然であるのにそれを隠ぺいしようとするなどと考えるのは全くの筋違いで、あってはならないこと」と発言し、遺憾の意を表明したこと、その上で、「不正請求など医師の倫理に背くようなことが起きないよう徹底したいと再発防止の取り組みを進めていく方針を示」したことを報じるものである。

4 マスコミ報道に対する歯科医師会新会長の発言

放送があった日である平成15年6月5日の午後5時から、県歯科医師会の平成15年度第3回定例理事会が開催された。その冒頭における会長挨拶の中で、新会長に就任した歯科医師は、本件不正請求事件に関し、概ね以下のとおりの発言をした。
                          記
午前11時過ぎころ、甲府放送局の記者から電話取材を受けた。その内容は、平成14年7月の臨時総会で前会長が不正請求を隠ぺいしたかの様な発言をしたことが取材の中で判明したことから、前会長に電話で聞いたところ、不正請求があった事実を認め、「その事実をなかったようにもみ消しをした訳ではなく、会のことを考えて社会的に明らかにならないように行政等に対応した」というコメントがあったので、これに関して、現会長として、本件不正請求事件と県歯科医師会の対応についてコメントをもらいたいという趣旨のものであった。私は、本件不正請求事件に関して「歯科医師の不正請求という事実について、非常に残念なことである。会長としてそれを重く受け止め、会員に対してそのような不正請求が起きないよう厳しく指導・徹底するのが当然の姿勢だと思います。それが漏れないようにという目的をもって行政などに対応したとすれば筋違いです。今後は診療報酬の不正請求など、医師の倫理に背くようなことが起きないよう会員に徹底したいと思います。」と回答した。前会長は、不正請求の事実、また不正請求のあったことが公表されないように県や社会保険事務局に相談したことも認めてしまったが、「マスコミにとって、また社会通念上このような事実は、隠ぺい工作と受け取られても仕方がない。」

本件放送の基礎となった取材を行ったのは甲府放送局の同記者であり、本件放送の前日である平成15年6月4日に前会長に電話取材を行い、本件放送当日昼には新会長に電話取材を行っていた。

 争点及び裁判所の判断

争点1 本件放送における歯科医師の特定の有無

【裁判所の判断】
テレビ放送によりある者の社会的評価が低下したか否かについては、一般の視聴者の普通の注意と視聴方法を基準にして判断すべきであるところ、本件放送では、県歯科医師会の「当時の幹部」の発言としてその内容を報じるものであり、具体的な氏名を明示していないし、会長職を含め役職名を具体的に摘示することもしていない。
しかしながら、本件放送を普通に視聴すれば、山梨県の歯科医師会という限られた地域における職業集団に属する者であり、かつ、平成14年当時その幹部を務めていた者が、県歯科医師会の総会の席という限られた場面で述べた発言内容や本件不正請求事件に対して取った対応を取り上げた報道内容であることは明らかである。また、「当時の幹部」として報じられた当事者が、平成14年7月当時の会長である原告歯科医師であることを、県歯科医師会の会員や地元の住民などを含む一般視聴者が推知することは十分に可能であるといわざるを得ない。
したがって、本件放送が「当時の幹部」としか述べてないことをもって、その対象者が原告歯科医師であることが特定されていないとはいえず、むしろ特定性に欠けるところはないといえるから、本件放送によっておよそ原告歯科医師に対する名誉毀損が成立しないということはできない。

争点2 原告歯科医師の社会的評価の低下について

【裁判所の判断】
本件放送が視聴者に向けて報じた主要な伝達事実は、県歯科医師会の平成14年当時の幹部や新会長の上記のとおりの発言があったことに尽きるのではなく、上記のような発言をするに至った背景に、本件不正請求事件をめぐって、県歯科医師会の平成14年当時の幹部の対応に「隠ぺい」を図った事実があったということ自体を取り上げて報じたものと認めるのが相当である。
以上を前提に、本件放送によって原告歯科医師の社会的評価が低下したかどうかを検討すると、平成14年当時の幹部の発言内容を取り上げ、本件不正請求事件に関する「問題の隠ぺいを示唆」したこと及び実際に「隠ぺい」があったことを報じていると解されるところ、このような発言や行動が県歯科医師会幹部の立場にある者の発言や行動として適切なものとはいい難いもので、これが公に摘示されることによって、社会通念上、原告歯科医師の社会的評価の低下をもたらすものであることは容易に認められる。したがって、名誉を毀損するにたり得る事実の摘示に当たると解される。

争点3 放送の公益性と公益目的について

【裁判所の判断】
人の社会的評価を低下させる報道が行われたとしても、それが公共の利害に関わる事実で、その報道がもっぱら公益を図る目的であった場合、その報道内容の主要な部分が真実であると認められれば、名誉毀損の不法行為は成立しないと解される。
本件放送は、A歯科医師による本件不正請求事件が報道されて一般に発覚したことに関し、A歯科医師の所属する県歯科医師会の対応などを報じたものであるところ、保険医療機関による診療報酬の不正請求といった案件は、公共の利害にかかわる事実であり、そして、県歯科医師会は、医療に従事する者の団体として社会的役割を果たすことを期待された公的な側面を有する団体とも認められ、本件不正請求事件に関する県歯科医師会の対応も、公共の利害に関する事実に当たると解するべきである。また、本件放送の目的は、公共の利害に関する事実を広く国民に知らせるという公益をもっぱら図る目的で行ったものであることが明らかである。

争点4 放送内容の真実性

【裁判所の判断】
県歯科医師会の当時の幹部である原告歯科医師が、本件不正請求事件についてマスコミや国民に対して事実を隠そうと対応した事実が認められるのであり、これを「隠ぺい」と評することは至当であるから、結局、「隠ぺい」の事実についても真実性の立証があったということができる。
上記の次第で、本件放送の中には、原告歯科医師の社会的評価を低下させる事実の摘示があったと認められるものの、これが公共の利害に関し、もっぱら公益目的で報道したことに加え、当該摘示事実の真実であることを証明できているといえるため、その余の争点を判断するまでもなく、原告らの請求は理由がないものと認められる。

 判決:結論

原告の請求を棄却する。


診療報酬請求のトラブル、診療報酬の不正請求に関する訴訟、裁判に悩んでいる、あるいは歯科診療報酬に関する訴訟提起を検討されている歯科医の方は、迷わずお電話を下さい。ご状況を十分確認聴取した上で、取るべき対応、留意点などを具体的にアドバイス致します。


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