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義歯の誤飲と内視鏡、開腹手術の判例をご紹介します。歯科トラブル、歯科訴訟にお悩みの歯科医の方は、歯科医師のための弁護士、サンベル法律事務所に迷わずご相談下さい。

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歯科訴訟:義歯の誤飲と内視鏡、開腹手術

誤飲など歯科診療のトラブルに強い、歯科医師のための弁護士です。

誤飲に関する患者トラブルにお悩みの歯科医師の方は、迷わずご相談下さい。初期対応が肝心です。まず弁護士に相談しアドバイスを受けることを強くお勧めします。


弁護士鈴木が力を入れている歯科医院法務に関するコラムです。
ここでは、歯科訴訟の判例のご紹介、ご説明を致します。


取り上げる判例は、平成14年4月26日東京地方裁判所の判決です。
なお、説明のために、事案等の簡略化をしています。
判決の原文は、裁判所のホームページ上に公開されており、以下となります。
・ 判例:義歯の誤飲と内視鏡、開腹手術

 事案の概要

患者が、市立病院の医師に対し、@患者が誤飲した義歯を内視鏡的処置により摘出する際、器具の操作を誤り、操作器具ないし義歯を食道壁に食い込ませた結果、患者は、緊急開腹手術を余儀なくされたこと、A緊急開腹手術の可能性などについて事前に説明しなかったことを理由に、172万7760円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求めた事案です。

事案の概要は以下のとおりです。

1 内視鏡的処置に至る経緯

患者は、平成9年5月14日に設立した株式会社を経営する者である。
患者は、平成10年4月18日、夕食中に上顎左部分の義歯を飲み込み誤飲してしまい、同月20日の午後から、時々、胃に不快感を感じるようになった。
患者は、病院に対し、同月21日午前9時ころ、「義歯を飲み込んでしまった」旨電話で連絡した上で、同日午前10時40分ころ、同病院外科外来を受診した。医師は、患者に対し、患者の胸部を撮影したレントゲン写真を示し、内視鏡による操作(以下「内視鏡的処置」という。)によって義歯を摘出する旨告げた。その際、医師は、内視鏡的処置で義歯を摘出できなかった場合には開腹手術が必要となること及び内視鏡的処置の際に緊急手術が必要となることがあることについて説明しなかった。

2 開腹手術に至る経緯とその後の経過

医師は、患者に対し、同日午後1時ころから同日午後2時ころまで、内視鏡室において、当初は異物鉗子を利用し、その後スネアを利用して、内視鏡的処置を繰り返し行ったが、義歯を摘出することはできず、スネアに義歯を引っかけて、義歯を胃から食道に引いてくる際、胃と食道の接合部において、義歯のブリッジを食道壁に食い込ませてしまった。
医師は、同日午後2時ころ、義歯のブリッジが食道に食い込んだことから、スネアの操作を行っているワイヤを切断して、内視鏡だけを引き抜くとともに、患者に対する開腹手術を行うこととし、患者に対し、無理にスネアのワイヤを引き上げると、食道壁を裂断する状況にあることを説明し、ワイヤの残りを小さく巻いて、患者の頬にテープで固定した。患者は、手術の準備ができ次第すぐに開腹手術を行う旨説明され、横になったまま内視鏡室から処置室に運ばれた。
その後、医師が、患者に対し、同日午後4時40分ころから午後7時15分ころまで開腹手術を行い、義歯、スネア及びワイヤを摘出した。
患者は、同日から同年5月8日まで病院に入院し、同日退院した。

 争点及び裁判所の判断

争点1 説明義務違反の有無

【裁判所の判断】
証拠によれば、医師は、内視鏡的処置を行うに当たって、レントゲン写真によって義歯が患者の胃にあることを確認して、「内視鏡で摘出してみましょう。」と言っただけであり、自然排泄を待つことの危険性について説明を行わず、胃にある義歯を取り除くには、内視鏡的処置と開腹手術の2つの方法があること、内視鏡的処置で取り除くことができない場合、開腹手術になること、義歯が胃壁ないし食道壁に食い込んだ場合、緊急の開腹手術が必要になって、入院しなければならないことなど全く説明をしなかった。
胃内に移動した異物のうち、80パーセントは、肛門から安全に自然排出されるが、異物の長さが5センチメートル以上ある場合は、一般的に内視鏡的処置によって除去するのが通常であるところ、本件において患者が誤飲した義歯は、長さ約5.5センチメートルであり、しかも、両端などに金属のブリッジがついていた。義歯などの鋭い尖端を持った不定形異物は食道穿孔の危険性が高く、致命的となり得るので早急に摘出すべきであり、自然排泄の際、腸などで穿孔を起こすと、腹膜炎を発症し、致命的となる場合がある。内視鏡的処置は、開腹手術より患者に対する侵襲の程度や負担が少ないのは明らかであるから、医師がまず内視鏡的処置によって、患者の義歯を取ろうと試みた措置は妥当なものであった。
ところで、医師は、患者の疾患の治療のために手術又は処置を実施するに当たっては、特別の事情のない限り、患者に対し、当該疾患の診断(病名と病状)、実施予定の手術又は処置の内容、手術又は処置に付随する危険性、他に選択可能な治療方法があれば、その内容と利害得失、予後などについて説明すべき義務がある。本件においてみると、内視鏡的処置を行うに当たって、患者が飲み込んだ義歯の大きさ、形状からして、自然排泄を待っていては危険性があること、胃にある義歯を取り除くには、内視鏡的処置と開腹手術の2つの方法があること、内視鏡的処置で取り除くことができない場合、開腹手術になること、内視鏡的処置を行う場合、義歯が胃壁ないし食道壁に引っかかる可能性があり、その場合、緊急の開腹手術が必要になって、入院しなければならないことを説明すべきであったといわなければならない。
しかるに、本件で医師に説明義務違反があったことは明らかである。

医師は、内視鏡的処置が準緊急処置としての必要性があったことから、患者において内視鏡的処置の時期を選ぶことができなかったし、緊急手術の可能性を説明していようといまいと、患者は、内視鏡的処置をまず選択したと考えられるから、患者の自己決定権を侵害していないと主張する。
しかしながら、患者が医師の説明いかんにかかわらず内視鏡的処置を選択していたとの医師の主張は、説明義務違反と損害との因果関係の問題であって、患者の自己決定権を侵害していないとの医師の立論自体採用することはできない。
また、患者に対し、入院等の心構えや準備をさせる時間を与えることができないほどに、直ちに内視鏡的処置を行わなければならない緊急性があったと認めることはできないし、患者が、内視鏡的処置の結果、緊急開腹手術となり、入院が必要となる可能性について説明されていれば、それに応じた仕事の整理等を指示し、入院の心構えや準備をした上で、内視鏡的処置を受けることができたと考えられるのであり、この点において患者は医師から適切な説明がされなかったことにより精神的損害を被っていると認められるのであり、この点に関する医師の主張も認められない。

争点2 内視鏡的処置における過失の有無

【裁判所の判断】
医師がスネアによる義歯の摘出を試み、義歯のブリッジが食道壁の粘膜に引っかかり食道壁を損傷させるので、それ以上スネアを引っ張ることができないという状態を数回繰り返していたのに、スネアによる義歯の摘出を続けて、最後に義歯のブリッジを粘膜下層まで食い込ませ、さらには、スネアのかかっている側の義歯のブリッジも食道壁に食い込ませてしまい、義歯のみならず、それにつながっていたスネアをも取り出すことができずに、緊急開腹手術が必要になるという事態を生じさせたというのであり、内視鏡により摘出するのが困難な場合には、食道壁を傷つけるおそれがあるから、無理せずに開腹又は開胸下で手術するものとされていることなどが指摘されていることを考えると、患者の義歯のブリッジを食道壁の粘膜下層にまで食い込ませ、義歯及びスネアをも取り出すことができずに、緊急開腹手術が必要になったという事態を生じさせたのは、医師においてスネアの無理な操作をした結果であると認めざるを得ず、医師には過失があったと認められる。

争点3 患者の損害

【裁判所の判断】
合計         113万円
 内訳 慰謝料     80万円
    証拠保全費用  13万円
    弁護士費用   20万円

 判決:結論

被告は、原告に対し、113万円及びこれに対する平成10年4月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。


義歯などの誤飲のトラブル、誤飲に関する訴訟、裁判に悩んでいる歯科医の方は、迷わずお電話を下さい。診療録などの証拠及び患者の主張内容などを十分に確認聴取した上で、取るべき対応、留意点などを具体的にアドバイス致します。


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