歯科診療報酬のトラブルに強い、歯科医師のための弁護士です。
保険医・保険医療機関への個別指導、監査にお悩みの歯科医の方は、サンベル法律事務所にご相談下さい。指導監査には、弁護士を立ち会わせるべきです。
弁護士鈴木が力を入れている歯科医院法務に関するコラムです。
ここでは、歯科訴訟の判例のご紹介、ご説明を致します。
取り上げる判例は、平成18年1月31日岡山地方裁判所の判決です。
なお、説明のために、事案等の簡略化をしています。
歯科の個別指導、監査に悩んでいる歯科医の方は、良い効果が期待できますので、歯科の指導、監査に詳しい弁護士への速やかな相談を強くお勧めします。個別指導、監査においては、弁護士を立ち会わせるべきです。詳しくは、以下のコラムをご覧いただければ幸いです。
・ 歯科の個別指導と監査
事案の概要
市の住民が、医療法人の経営する歯科医院が特別養護老人ホームの入所者らに係る歯科医療給付を不正に受給したとして、歯科医院に対し市に代位して同給付573万7530円の返還等を求めるとともに、市長に対しても歯科医院に対する不正利得返還請求権の行使を怠っているとして同不行使が違法であることの確認を求めた事案です。
事案の概要は以下のとおりです。
1 歯科医療給付の不正受給に係る返還請求に至る経緯
歯科医院は、平成3年8月12日に設立され、診療所を開設・経営するほか、訪問看護ステーション及びデイケアの事業を行っている。
歯科医院は、平成11年1月から平成13年1月までの間、市に対し、特別養護老人ホームの入所者らに対して歯科診療をしたことを内容とする支払請求書等を提出し、市から老人保健法上の医療に関する費用として合計494万4600円の支払いを受けた。他方で、歯科医院は、入所者らに対して、上記の歯科診療に係る本人負担分の請求をしていなかった。
県国民健康保険団体連合会は、平成14年5月22日、歯科医院に対し、入所者らを含む者について313万6740円の返還を求め、歯科医院は同年5月27日、これを返還した。
社会保険事務局は、歯科訪問診療をしていないのに、歯科訪問診療をしたとして、歯科訪問診療料等を不正に請求したことなどを理由として、平成15年3月20日、次の処分をした。
ア 同年3月24日をもって、保険医療機関の指定を取り消す。
イ 同年3月24日をもって、保険医の登録を取り消す。
住民は、平成14年2月4日、市監査委員に対し、「歯科医院は、平成11年1月から平成13年1月までの間、実際には歯科医療行為をしていないのに、これをしたように装って、虚偽の記載をした支払請求書等を市に提出して、市に国民健康保険の療養給付に関する費用の支払いをさせた。市は、歯科医院に対してこの不正利得返還請求権とこれに100分の40を乗じた付加金の支払請求権を有しているが、その行使を怠っている。よって、市が被った損害を填補するため必要な措置をすることを求める。」旨の監査請求をした。
市監査委員は、平成14年3月25日、「内容が本市の長、職員等の行為または事実に対するものではないこと、また財務会計上の問題ではないこと」を理由に、監査請求を却下する決定をし、同日ころ、当該決定の通知書が住民に到達した。
住民は、平成14年4月22日、本件訴訟を提起した。
2 請求内容
歯科医院が老人保健法の医療に関する費用494万4600円を不正に受給しており、市は老人保健法42条3項により、歯科医院に対し同額の不正利得返還請求権及びその金額に100分の40を乗じた額である197万7840円の加算金支払請求権があるが、118万4910円は既に弁済されたから、残額573万7530円の支払請求権を有しているにもかかわらず、その権利行使を怠っており、@歯科医院に対し、金573万7530円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成14年4月28日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金を市に支払うよう代位請求し、A市長に対し、歯科医院に対する上記@の金員の支払請求を怠ることの違法確認を求める。
争点及び裁判所の判断
争点1 歯科医院が入居者らに対してなした歯科診療行為の有無、程度
【裁判所の判断】
歯科医院のカルテの記載は、訪問診療の実態を反映したものとは到底いえず、歯科医院において、診療報酬請求をするために作出したものと推認せざるを得ないところ、歯科医院において、平成11年1月から平成13年1月までの間、入所者らに対して、歯科訪問診療をなしたことを窺いうる資料はなく、その形跡を認めることも困難である。歯科医院は、入所者らに対して、歯科訪問診療をなしていないものと推認するほかない。
争点2 歯科医院が市に支払うべき金額
【裁判所の判断】
歯科医院が、平成11年1月から平成13年1月までの間、市に対し、入所者らに対して歯科診療をしたことを内容とする支払請求書等を提出し、市から老人保健法上の医療に関する費用として合計494万4600円の支払いを受けているところ、歯科医院は、当該歯科訪問診療をなしておらず、「偽りその他不正の行為により」受給した「医療に関する費用」であることが明らかであるので、市に対し、老人保健法42条3項に基づき、同額の返還義務を負うほか、その金額に100分の40を乗じた額である197万7840円の加算金の支払義務を負うことになる。
歯科医院は、市に対して、入所者らに関する診療報酬のうち、合計118万4910円を返還したので、この弁済額を控除した残額は、573万7530円となる。
判決:結論
1 被告歯科医院は、被告市に対し、金573万7530円及びこれに対する平成14年4月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告市長が被告歯科医院に対し前項の金員の支払請求を怠ることが違法であることを確認する。
診療報酬請求のトラブル、診療報酬の不正請求・不正受給に関する訴訟、裁判に悩んでいる、あるいは歯科診療報酬に関する訴訟を検討されている歯科医の方は、迷わずお電話を下さい。ご状況を十分確認聴取した上で、取るべき対応、留意点などを具体的にアドバイス致します。