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インプラントと知覚麻痺の判例をご紹介します。歯科トラブル、歯科裁判にお悩みの歯科医の方は、歯科医師のための弁護士、サンベル法律事務所に迷わずご相談下さい。

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歯科訴訟:インプラント手術と知覚麻痺

インプラントのトラブルに強い、歯科医師のための弁護士です。

インプラントに関する患者トラブルにお悩みの歯科医師の方は、迷わずご相談下さい。初期対応が肝心です。まず弁護士に相談しアドバイスを受けることを強くお勧めします。

弁護士鈴木が力を入れている歯科医院法務に関するコラムです。
ここでは、歯科訴訟の判例のご紹介、ご説明を致します。


取り上げる判例は、平成15年7月11日名古屋地方裁判所の判決です。
なお、説明のために、事案等の簡略化をしています。

 事案の概要

歯科医院でインプラント植立手術を受けた患者が、執刀した歯科医師に対し、手術の際の手技上のミスによって左側下唇及びオトガイに麻痺感が残存する後遺障害を負ったと主張して、6945万9230円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求めた事案です。

事案の概要は以下のとおりです。

1 インプラントの再手術を行い転院するまでの診療経過

患者(昭和27年生まれの男性)は、平成9年7月30日、歯科医院で歯科医師の診察を受け、歯科医師は、患者の下顎は左右各1番ないし4番の歯が存在するのみの状態であったところ、左右の6番及び7番部にそれぞれインプラントを挿入し、その後、左右の2番ないし4番を抜髄して下顎全体に1個の義歯を装着した。
歯科医師は、同年8月19日、左側のインプラントに動揺を認めたため、渋る患者を説得し再手術を行うこととした。
歯科医師は、同年9月2日、再手術を行い、まず歯根部に浸潤麻酔を施した上、左下顎のインプラントを撤去して骨溝中の肉芽を掻爬し、数ミリ程度遠心側に骨溝を延長したところ、骨の切削時に患者が強い痛みを訴えた。そこで、歯科医師は、切削を一旦中止して浸潤麻酔を追加した上でさらに手術を継続して手術を終えた。
しかし、患者は、その後、右下顎のインプラントの動揺も気がかりになったため、同月19日、右下顎の再手術を行い、同年10月中旬頃、左右のインプラント頸部に義歯を装着した。患者は、手術後、麻酔が切れた後も左側下唇とオトガイに麻痺感を感じ、歯科医師に訴えた。歯科医師は、当初、手術後の一時的なものにすぎないと受け止めていたが、その後も患者がしびれを訴え続けたため、同年10月31日、パノラマX線写真を撮影した。歯科医師は、パノラマ撮影の結果、インプラントによる神経の圧迫は認められないとして、経過観察としたが、その後も患者が麻痺感を訴えたため、附属病院口腔外科の医師を紹介した。

2 病院口腔外科への転院後の診療経過

病院の医師は、平成10年2月5日、インプラント挿入部位のX線撮影を行ったところ、インプラントと神経がひっついているように見えたため、歯科医師に対し「オトガイ孔付近でインプラント体が神経を圧迫しているようです。」と回答した。
病院の医師は、患者に対し、ソフトレーザー治療及び投薬治療を続けたところ、患者は、同年5月28日の診察の際には「最初と比べたら格段に良くなったがしびれた感じがあり、今は薬を飲んでいない。」と述べる等、麻痺の程度はいくぶんか軽減し、同年6月25日の診察の際には極軽い接触で2点分別が可能な状態であった。しかし、麻痺の範囲はほとんど縮小しなかった。
病院の医師は、同年6月29日、左下顎の6番部及びオトガイ孔を断層部位とする断層撮影を行ったところ、インプラントとオトガイ孔との間には隙間がありそうだとの所見を得、インプラントを摘出することなく、ソフトレーザー治療を継続することとした。
患者は、同年8月6日までの間、合計25回のソフトレーザー治療を受けたが症状に著しい改善はなかったため、もはや治療の継続を望まないとの意向を示し、同年9月24日、附属病院における治療は打ち切られた。
平成14年7月23日に撮影されたCT写真によれば、患者の左下顎部に挿入されたインプラントの遠心側の部分は下顎管と交通している所見が見られる。

3 現在の知覚麻痺の程度及び範囲

患者の知覚麻痺の範囲及び程度とも附属病院における初診時から大きな改善はなく、左側下唇及びオトガイ(上下的には赤唇からオトガイまで、左右的には下唇正中部から左側口角までの範囲)が右側に比して触覚に鈍感であり、この知覚麻痺のせいで食事の際、口内の左側は熱さを感じず、また下唇粘膜をかんだり、食物が口からこぼれても気付きにくいといった不自由が生じている。また、舌の左半分が右半分よりも味覚刺激に鈍感である。

 争点及び裁判所の判断

争点1 患者の後遺障害とインプラント手術との因果関係の有無

【裁判所の判断】
下顎における神経の走行状況、インプラント植立手術による神経麻痺発生の可能性、その機序及び神経障害に起因する症状に、患者が知覚麻痺を初めて認識したのが手術後、麻酔が切れてすぐであったこと、手術が既に切削された部位をさらに切削するという内容のものであったこと、手術の切削時、患者が追加麻酔を要する程の急激な痛みを感じたこと、但し、その際、出血量が急激に増大したような事情は窺えないこと、患者の知覚麻痺の範囲とその程度、左下顎に挿入されたインプラントの遠心側の部分が下顎管と交通している所見がみられ、これが現在の知覚麻痺の原因となっていると考えられることを併せ考慮すると、患者の後遺障害は、歯科医師が手術の際、骨溝を下顎管付近まで切削し、下顎管に近接した位置にインプラントを打ち込んだため、インプラントによって下顎管内が圧迫され、下顎管中を走行している下歯槽神経が麻痺したことによって生じたものと推認することができる。

争点2 歯科医師の過失の有無

【裁判所の判断】
歯科医師は、手術の際、特に再手術であったのであるから、骨溝作成の際には下顎管を穿孔、圧迫しないよう慎重に切削を進め、患者が痛みを訴えた際には不十分な麻酔効果によるものか、切削が下顎管近くに及んだことの徴表なのかをX線撮影を行って確認し、下顎管内を圧迫しない位置にインプラントを挿入すべき注意義務があったにも関わらず、これに違反し、下顎管付近まで切削し、患者からの痛みの訴えに対してもX線撮影による確認作業を行うことなく漫然と追加麻酔を施して手術を続行し、下顎管に接近した位置にインプラントを打ち込んで下顎管内の圧迫による下歯槽神経麻痺を招来し、知覚麻痺を出現させたものと認められ、この点に過失がある。したがって、歯科医師は、患者が後遺障害を負ったことによって被った損害を賠償する責任を負う。

争点3 患者の損害

【裁判所の判断】
合計              674万2957円
 内訳 治療費           5万1870円
    交通費           7万0560円
    後遺障害逸失利益    452万0527円
    傷害慰謝料(通院慰謝料) 50万0000円
    後遺障害慰謝料     100万0000円
    弁護士費用        60万0000円

 判決:結論

被告は、原告に対し、674万2957円及びこれに対する平成11年7月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。


インプラント手術による知覚麻痺のトラブル、知覚麻痺の訴訟、インプラント裁判に悩んでいる歯科医の方は、迷わずお電話を下さい。診療録などの証拠及び患者の主張内容などを確認聴取した上で、取るべき対応、留意点などを具体的アドバイス致します。


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