歯科の個別指導の書籍を出版し、歯科の保険診療に強い、歯科医師のための弁護士です。
保険医・保険医療機関への個別指導、監査にお悩みの歯科医の方は、サンベル法律事務所にご相談下さい。指導監査には、弁護士を立ち会わせるべきです。
弁護士鈴木が力を入れている歯科個別指導監査に関するコラムです。
ここでは、歯科保健診療(レセプト作成、自己診療、自家診療)についてご説明します。内容は、厚生労働省保険局医療課医療指導監査室の公表資料「保健診療の理解のために【歯科】(平成28年度)」に基づいており、弁護士鈴木が適宜加筆修正等しています。
歯科の個別指導、監査に悩んでいる歯科医の方は、歯科の指導、監査に詳しい弁護士への速やかな相談をお勧めします。個別指導、監査では、弁護士を立ち会わせるべきです。詳しくは以下のコラムをご覧いただければ幸いです。
・ 歯科の個別指導と監査の上手な対応法
1 診療報酬明細書(レセプト)の作成
1 レセプトへの関与について
診療報酬明細書(レセプト)は、請求事務部門が単独で作成するものではなく、保険医もまた作成の一翼を担っていることを十分に認識する必要がある。
また、誤請求や不適切請求を未然に防ぐためにも、レセプトの作成を請求事務部門任せにするのではなく、主治医自らレセプトの点検作業等に参加し、レセプト作成に積極的に関わる必要がある。
(参考)
療担規則第23条の2(適正な費用の請求の確保)
保険医は、その行った診療に関する情報の提供等について、保険医療機関が行う療養の給付に関する費用の請求が適正なものとなるよう努めなければならない。
2 レセプト点検のポイント
審査支払機関への提出前には、主治医自ら必ず診療録等と照合し、記載事項に誤りや不備等がないか十分に確認する必要がある。
以下に、保険医がレセプト点検の際に注意すべき留意点の一例を示す。これらはあくまで参考であり、医療機関の診療体制の実態に応じて、適切なレセプトチェック体制を院内全体で確立する必要がある。
(レセプト点検時の注意点の一例)
@ 傷病名
・診療録に記載(あるいは医療情報システムに登録)した傷病名と一致しているか。
・査定等を未然に防ぐことを目的とした実態のない架空の傷病名(いわゆる「レセプト病名」)が記載されていないか。
・疑い病名、急性病名等が長期間にわたり放置されていないか。
・診療開始日が、レセプトと診療録とで一致しているか。
A 請求内容
・レセプトの請求内容は、診療録の診療内容と一致しているか。
・診療録への必要記載事項が定められた項目の請求については、必要な事項がきちんと診療録に記載されているか。
・歯科医師がオーダーしていない医学管理料等が算定されていないか。また、同一の医学管理料が、入院と外来とで重複して算定されていないか。
・中止、取消した薬剤等が誤って算定されていないか。また、処置等に用いた薬剤を投薬欄に記載するなど、誤った場所に記載されていないか。
・処置名、術式は、実際に行った手術と合致しているか。
2 患者から受領できる費用
1 一部負担金等の受領について
療担規則の規定により、患者から受領できる費用の範囲が以下のとおり定められている。これらの費用は、原則的に全ての患者から徴収する必要があり、特定の患者(職員、職員家族等)に対して減免等の措置を取ってはならない。
(患者に負担を求めることができるもの)
@ 患者一部負担金
A 入院時食事療養費・入院時生活療養費の標準負担額
B 保険外併用療養費における自費負担額
C 療養の給付と直接関係ないサービス等の実費
3 保険外併用療養費制度について
従前の特定療養費制度は、新しい医療技術の出現や患者のニーズの多様化等に対応し、高度先進医療や特別のサービス等について保険給付との調整を図るために創設されたものであったが、平成18年10月から、特定療養費制度が廃止され、新たに保険外併用療養費制度が設けられた。
この保険外併用療養費制度は、保険外負担のあり方を抜本的に見直すことを目的としたものである。従前の特定療養費制度の趣旨を踏まえつつも、保険給付の対象とすべきものであるか否かについて、適正な医療の効率的な提供を図る観点から評価を行うことが必要な療養を「評価療養」、特別の病室の提供など被保険者の選定に係るものを「選定療養」として整理再編したものである。
また、平成28年4月から、未承認薬等を迅速に保険外併用療養として使用したいという困難な病気と闘う患者の思いに応えるため、患者からの申出を起点とする新たな仕組みとして「患者申出療養」が創設された。この制度は、将来的に保険適用につなげるためのデータ、科学的根拠を集積することを目的としている。
「評価療養」とは、厚生労働大臣が定める高度の医療技術を用いた療養その他の療養であって、将来的に保険給付の対象として認めるかどうかについて、適正な医療の効率化を図る観点から評価を行うことが必要な療養として厚生労働大臣が定めるものをいい、基礎的な部分を保険外併用療養費として保険給付する制度である。
患者の不当な自己負担が生じないよう、例えば“先進医療”は医療機関等の届出に基づき、厚生労働大臣の設置する先進医療専門家会議において個々の技術について審査・承認し、その内容や費用を明確化するとともに、それらの情報の院内での掲示等を義務付けている。
(評価療養の種類)
・先進医療(高度医療を含む。)
・医薬品の治験に係る診療
・医療機器の治験に係る診療
・医薬品医療機器法承認後で保険収載前の医薬品の使用
・医薬品医療機器法承認後で保険収載前の医療機器の使用
・適応外の医薬品の使用
・適応外の医療機器の使用
「選定療養」とは、患者の選択に委ねることが適当なサービスについて、患者自ら選択して追加的な費用を自己負担しつつ、基礎的部分について療養費の支給を受けながら、診療を受けることを認める制度である。
(選定療養の種類)
・特別の療養環境の提供
・予約診療
・時間外診察
・歯科の金合金等
・金属床総義歯
・う蝕の継続的な指導管理
・200床以上の病院の未紹介患者の初診
・200床以上の病院の再診
・制限回数を超える医療行為
・180日以上の入院
「患者申出療養」とは、困難な病気と闘う患者の思いに応えるため、先進的な医療について、患者の申出を起点とし、安全性・有効性等を確認しつつ、身近な医療機関で迅速に受けられるようにするものである。
これは、国において安全性・有効性等を確認すること、保険収載に向けた実施計画の作成を臨床研究中核病院に求め、国において確認すること、及び実施状況等の報告を臨床研究中核病院に求めることとした上で、保険外併用療養費制度の中に位置付けるものであるため、いわゆる「混合診療」を無制限に解禁するものではなく、国民皆保険の堅持を前提とするものである。
(参考)先進医療
・療養担当規則18条には、「保険医は、特殊な療法又は新しい療法等については、厚生労働大臣の定めるもののほか行ってはならない」との規定があるが、先進医療については、保険診療で禁止されている特殊な療法又は新しい療法の例外として認められている。具体的には、有効性及び安全性を確保する観点から、医療技術ごとに一定の施設基準を設定し、施設基準に該当する保険医療機関は届出により、先進医療と保険診療との併用ができることとしたものである。
・従来の特定療養費制度では、実施するに当たって、医療技術の有効性・安全性を確認し、かつ、その技術ごとに医療機関の審査・承認が必要であった。しかし平成 18 年 10 月の制度改正によって、既に先進医療(従来の高度先進医療を含む。)として評価を受けている医療技術については、各技術ごとに一定水準の要件を設定し、該当する医療機関は届出により実施可能な仕組みとなった。
・また、未評価の新規技術については、@医療技術の科学的評価は、厚生労働大臣の設置に係る専門家会議に委ね透明化、A医療機関から要件の設定に係る届出がなされてから、原則3か月以内に、「適」、「否」、「変更」又は「保留(期間の延長)」、のいずれかを書面により、理由を付して通知することにより、透明化・迅速化が図られた。
・制度改正によって、先進医療実施の敷居が低くなったものの、先進医療が保険診療における例外であるという位置づけに変わりはなく、以上のようなルールを遵守しなければ、たとえ良質な医療行為を提供していたとしても、療養担当規則違反とも問われられかねない。届出や報告、実施体制等に遺漏ないよう、現場の歯科医師と医事課部門で密に連絡を取りつつ実施していただきたい。
(参考)医薬品の治験に係る診療に関する留意点
・保険外併用療養費の支給対象となる治験は、医薬品医療機器法の規定に従い依頼されたものに限られる。また治験の実施に当たっては、医薬品医療機器法その他の治験に関する諸規定を遵守する。
・保険外併用療養費の支給対象となる期間については、治験の対象となる患者ごとに当該治療を実施した期間(治験実施期間)とする。治験実施期間とは、治験薬等の投与を開始した日から投与を終了した日までであり、治験薬等を投与していない前観察期間及び後観察期間はこれに含まれない。
・検査、画像診断の費用については、保険外併用療養費の支給対象とはしない。また、投薬、注射の費用のうち、治験薬の予定される効能、効果と同様の効能、効果を有する医薬品の費用については、保険外併用療養費の支給対象とはしない。(いずれも、治験依頼者の費用負担とする。)
・保険外併用療養費の支給対象となる治験は、患者に対する情報提供を前提として、患者の自由な選択と同意がなされたものに限られる(治験の内容等を患者に説明することが医療上好ましくない場合等の場合は、支給対象とならない。)。
4 自己診療、自家診療について
1 自己診療について
歯科医師が、自身に対して診察し治療を行うことを「自己診療」といい、健康保険法等に基づく現行の医療保険制度は、被保険者等の患者(他人)に対して診療を行う場合についての規定であるとされていることから、自己診療を保険診療として行うことについては、認められない。なお、同一の保険医療機関であっても、他の保険医に診察を依頼し、治療を受ける場合は、保険診療として請求することができる。
2 自家診療について
歯科医師が、自らの家族や従業員に対し診察し治療を行うことを「自家診療」と いう。
自家診療を保険診療として行う場合については、加入する医療保険制度の保険者により取扱いが異なるようである。認められる場合についても、診療録を作成し、必ず診察を行い、その内容を診療録に記載し、一部負担金を適切に徴収するのは当然である。無診察投薬、診療録記載の省略、一部負担金を徴収しない等の問題が起こりやすいため、診察をする側、受ける側ともに注意が必要である。
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