歯科のトラブルの解決に強い弁護士です。
医療ミス、医療過誤と患者に主張されお悩みの歯科医師の方は、サンベル法律事務所にご相談下さい。なお、患者側からのご相談はご遠慮いただいております。
弁護士鈴木が力を入れている歯科医院法務に関するコラムです。
歯科訴訟に繋がる医療過誤、医療ミスについてお話をします。
医療過誤訴訟の状況
1 歯科医療ミス、歯科医療過誤訴訟の件数
歯科の裁判の件数は、裁判所の公表資料(医事関係訴訟に関する統計)によれば、以下のとおり、平成25年は78件、平成26年は89件、平成27年は87件となっています。数値は全国の地方裁判所事件の既済件数であり、平成27年の数値は速報値です。統計上、医療訴訟の件数は全体として横ばい傾向にありますが、歯科医療ミス、歯科医療過誤訴訟については、若干の増加傾向があるといえます。
診療科目 平成25年 平成26年 平成27年
内科 177 187 178
小児科 10 9 13
精神科 33 31 25
皮膚科 12 8 6
外科 124 114 121
整形外科 90 95 95
形成外科 29 28 28
泌尿器科 24 13 17
産婦人科 56 60 50
眼科 20 17 18
耳鼻咽喉科 6 8 10
歯科 78 89 87
麻酔科 2 6 4
その他 118 98 98
2 歯科医療ミス、歯科医療過誤訴訟の判決の認容率
医療関係訴訟の判決の認容率(判決のうち訴えた請求が一部でも認められた割合)は、裁判所の公表資料(医事関係訴訟に関する統計)によれば、平成25年は24.7%、平成26年は20.4%、平成27年は20.6%となっています。歯科の裁判だけでなく医療訴訟全体の地方裁判所での判決の認容率であり、平成27年の数値は速報値です。医療過誤、医療ミスがあったとして裁判となった場合に、判決で歯科医側が負ける確率は、歯科と他の診療科目に大きな差がないとすれば、統計上、2割強ということになります。
3 歯科医療ミス、歯科医療過誤訴訟の平均審理期間
医療関係訴訟の平均審理期間は、裁判所の公表資料(医事関係訴訟に関する統計)によれば、平成25年は23.3カ月、平成26年は22.6カ月、平成27年は22.8カ月となっています。歯科の裁判だけでなく医療訴訟全体の裁判の平均審理期間であり、地方裁判所及び簡易裁判所の事件が含まれ、平成27年の数値は速報値です。歯科医療過誤、歯科医療ミスの裁判は、第一審の終結まで、歯科と他の診療科目に大きな差がないとすれば、統計上、2年程度ということになります。歯科訴訟は例えば2年程度かかるとお伝えすると、びっくりする歯科医の方も多いのですが、これが歯科医療過誤、歯科医療ミスの裁判の実情です。
4 生涯で歯科医療過誤、歯科医療ミスの裁判に関わる確率
歯科医師の数は、平成26年12月31日時点の届出数(厚生労働省の公表統計資料)によれば、10万3972人です。それに対して、年間の歯科医療過誤、歯科医療ミスの訴訟件数が85件(直近3年間平均)ですので、ごく単純に考えますと、歯科医師が歯科医療に関して今後1年間で新規に裁判に関わる確率は、0.08%ということになります。すると、歯科医師が40年間歯科医療に取り組んだとして、生涯で医療過誤、医療ミスの裁判に関わる確率は、3.2%です。
5 歯科医療過誤訴訟の状況のまとめ
統計上、歯科医師が医療過誤、医療ミスに関して裁判に関わることは少ないです。しかし一方で、裁判は国民の権利であり、医療関係訴訟の判決の認容率の低さ(直近3年間平均21.9%)が示すとおり、歯科医師ないし歯科医院側に落ち度がなく現実には歯科医療過誤、歯科医療ミスがなくても、患者が訴えてくることがあります。その場合、裁判所が直ちに審理を終結してくれるケースは少なく、医療関係訴訟の平均審理期間(直近3年間平均22.9カ月)が示すとおり、長期間の裁判手続きが必要になります。
医療ミスと患者が主張し訴えた際の現場対応法
医療ミスと主張された際の対応のポイント
患者から医療ミスのクレームがあった場合の対応のポイントは、以下のとおりです。
@ 単純な医療ミス
→ 丁寧に直ちに謝罪し、歯科医師賠償責任保険で対応する。
A 医療ミスか不明
→ 医療ミスを認める謝罪はせず、調査検討してから回答する。
B 医療ミスがない
→ 治療にミスがないことと自らの正当性を丁寧に説明する。
@の単純な医療ミスとは、例えば抜歯で歯を取り違えてしまったケースなどです。この場合は、直ちに丁寧に謝罪することが、紛争の沈静化に繋がります。
Aの医療ミスか不明なケースでは、その場で安易に謝罪せず、医療ミスがあったと判断できるまで、患者に賠償の期待を持たせないことが肝心です。賠償の期待を持たせてしまった場合、後に、歯科医師賠償責任保険の保険会社から、歯科医療過誤がなく賠償金は支払えないとの回答があった際に、患者に対し、保険会社が医療ミスがないと判断したため賠償金は支払えない、と伝えても、患者は納得ができず、紛争が拡大し、白黒つけるため歯科訴訟に至ってしまいます。
Bの医療ミスがないケースでは、恐れずに、治療にミスがないことと自らの正当性をはっきり繰り返し説明することが重要です。患者が引き下がらないことも多いですが、医療ミスの立証は難しそうだと内心判断してくれるケースが多く、紛争の沈静化が期待できます。
医療過誤訴訟の弁護士の選び方
裁判は、勝つべきが勝ち、負けるべきが負ける、どの弁護士に依頼してもそう変わらない、こう考えている方もいるでしょう。しかし、現実は、裁判の進行方法や訴訟戦術など弁護士により個性があり、弁護士の腕の差が大きく影響します。
いざ裁判になった場合、どの弁護士に依頼すれば良いか、どうすれば腕の立つ弁護士に依頼できるか、という問題が生じます。
歯科医療過誤、歯科医療ミスの裁判については、典型的には、歯科医師賠償責任保険の関係で、保険会社から弁護士の紹介を受けるケースが多いでしょう。その他、歯科医師会から紹介を受ける、知り合いの歯科医師や顧問税理士などから紹介を受ける、インターネットで医療過誤訴訟に強そうな弁護士を探す、などといったルートが考えられます。
弁護士の腕は、経験のみから決まるものではなく、その弁護士個人の能力に大きく影響を受けます。とはいえ、保険会社から紹介してもらった場合は、歯科紛争の経験のある弁護士を紹介してもらえる可能性が高く、保険の手続きもスムーズですので、穏当な方法といえるでしょう。
しかし、保険会社から紹介された弁護士に依頼したものの、相性が悪く、後悔するケースも考えられます。また、歯科トラブル対応で有名な法律事務所を紹介され、代表弁護士は確かに力のある弁護士だったとしても、実際に担当する弁護士が力不足であることもあります。
そこで、相談した当日直ちに依頼するのではなく、まずは相談に留め、受けたアドバイス内容の妥当性や人柄などを熟慮し、その上で、信頼できるということであれば、後日に正式に依頼することをお勧めします。その弁護士の腕や相性に不安を感じれば、正式な依頼は留保し、別のルートで別の弁護士へも同様の相談を行い、その上で、最終的にどの弁護士へ依頼するか、結論を出せば良いのです。
弁護士は、相談だけで終ることも多いので、正式な依頼を受ける前の段階であれば、歯科医師が複数の弁護士に相談をすることに、問題を感じることはないでしょう。歯科医師としては、紹介者への立場もありますが、自らの責任を問われる歯科医療過誤、歯科医療ミスの裁判を任せる者を決める重要な決断なので、自分の納得できる弁護士に依頼すべきです。
医療過誤、医療ミスのトラブルにお悩みの歯科医の方は、迷わずお電話を下さい。事実関係や患者の主張する歯科医療過誤、歯科医療ミスの内容などを聴取した上で、取るべき対応などをアドバイス致します。
他の歯科のコラム
歯科医院法務、歯科判例紹介のコラムの一覧です。
医療過誤や医療ミスについて以外にも、様々なコラムを掲載しています。
日常の医院運営、臨床などにご活用下さい。
歯科医院法務のコラム
1
歯科医院の居抜きと開業
2
医療法人の法務
3
歯科医院の事業承継とM&A
4
歯科医院の相続
5
歯科医院の倒産、廃業
6
患者のクレーム、トラブル
7
医療過誤、医療ミス
8
医療事故調査制度
9
歯科のヒアルロン酸注入 10
カルテの保存期間
11
歯科の個別指導と監査 12
医道審議会と行政処分
13
歯科医院の防犯カメラ
歯科判例紹介のコラム
1
判例:歯根嚢胞開窓術中の急変による死亡
2
判例:歯科医師の血液検査不実施による死亡
3
判例:インプラント治療の失敗
4
判例:補綴治療の失敗
5
判例:アナフィラキシーショックによる死亡
6
判例:補綴治療のミスと慢性根尖性歯周炎
7
判例:小児矯正での歯根吸収及び開咬
8
判例:インプラント手術と神経損傷
9
判例:根管治療からの抜歯の要件
10
判例:インプラント手術と咀嚼障害
11
判例:補綴治療の診療契約の法的性質
12
判例:歯科診療報酬の不正受給と返還請求
13
判例:注射針の上顎内迷入と後遺障害
14
判例:診療報酬不正請求の隠ぺい工作
15
判例:根管治療での穿孔と不必要な断髄
16
判例:歯科医師への名誉棄損の成立要件
17
判例:抜髄での歯髄失活剤の過剰貼付
18
判例:アナフィラキシーショックでの救護義務
19
判例:保険医登録取消処分の公表と名誉棄損
20
判例:インプラント手術と知覚麻痺
21
判例:歯肉のやけど、歯髄のやけど
22
判例:審美歯科の失敗と治療費の返還請求
23
判例:根管治療の失敗
24
判例:義歯の誤飲と内視鏡、開腹手術