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審美治療の失敗と治療費の返還請求の判例をご紹介します。歯科トラブルにお悩みの歯科医の方は、歯科医師のための弁護士、サンベル法律事務所にご相談下さい。

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歯科訴訟:審美歯科の失敗と治療費の返還請求

審美治療のトラブルに強い歯科医師のための弁護士です。

審美歯科に関する患者トラブルにお悩みの歯科医師の方は、迷わずご相談下さい。初期対応が肝心です。まず弁護士に相談しアドバイスを受けることを強くお勧めします。

弁護士鈴木が力を入れている歯科医院法務に関するコラムです。
ここでは、歯科訴訟の判例のご紹介、ご説明を致します。


取り上げる判例は、平成14年7月31日東京地方裁判所の判決です。
なお、説明のために、事案等の簡略化をしています。

 事案の概要

歯科医師との間で自己の歯について審美治療をする契約を締結した患者が、歯科医師において、@奥歯から整形するとい
う歯科医学の常識に反する治療を行い、しかも、そのことについて患者の同意を得なかった、A前歯2本について、不適切な治療をしてこれを出っ歯にした、B破折しやすい奥歯を装着し、現に装着された奥歯3本が破折したと主張して、歯科医師に対し、支払済みの治療費67万2000円の返還を請求した事案です。

事案の概要は以下のとおりです。

1 初診までの経緯

患者は、小学生のころ歯並びがよく表彰されたこともあり、また、アメリカ在住中にアメリカ人が歯に気を遣うことを知ったこともあって、歯をきれいにしようと考えるようになった。患者は、上顎左右1番がすり減って薄くなったため、同歯について、他の歯科医院において、審美治療を受け、歯を換えたところ、以前よりも出っ歯になったと感じていた。
患者は、いずれは上顎左右1番も含め、すべての歯をきれいにし、そのためには合計250万円程度の費用がかかっても構わないと考えていたところ、平成7年3月28日、友人から紹介を受けた歯科医師に審美治療をしてもらおうと、歯科医院を訪れ、歯科医師に対し、自分は歯にこだわりがあり、いずれは全部の歯を完全にしたいと思っていること、そのためにはいくらお金がかかっても構わないと考えていることを告げ、まず、上顎左右2番について、出っ歯にならないように大きくしてほしいと治療を依頼した。
患者には、いったん嚥下した食物を再び口に戻してそしゃくする癖があり、その結果胃酸が口腔内に逆流するため、歯科医師による平成7年3月28日の初診時の診察の結果、患者は、すべての歯の咬合箇所のエナメル質が溶解し、上顎前歯舌側もエナメルがなくなった状態で下顎前歯と咬合する状態にあり、低位咬合となっていた。なお、患者には、ブラギシズムはなかった。

2 初診での審美治療の説明と患者の同意

歯科医師は、診察結果に基づき、患者に対し、上顎左右1番について、客観的には出っ歯ではないが、患者が出っ歯であると感じているのであれば、きれいに仕上げるためには、上顎左右1番の歯を上顎左右2番と併せて治療するのがよいと提案し、また、上顎左右2番について大きくするには、奥歯から治療する必要があると説明したところ、患者は、上顎左右2番と併せて上顎左右1番を治療することについては拒否し、奥歯から治療することについては同意した。
そこで、歯科医師は、患者に対し、奥歯について保険適用の治療を行うと銀歯を入れることになることを説明するとともに、審美治療については、同年4月3日、見積書を示して、上下顎左右4、5番の治療について、@セラミックスを使い、硬いけれどももろく割れやすいポーセレンジャケットクラウンであれば1本10万円で、合計80万円かかること、Aポーセレンを改良して割れにくくしたハイブリッドセラミックスクラウンであれば1本7万円で、合計56万円かかること、B金属の上にセラミックスを焼き付けたセラモメタルクラウンであれば1本10万円で80万円かかることを説明し、下顎左右6番及び上下顎左右7番の治療について、@ポーセレンインレーであれば、1本8万円で合計48万円かかること、Aハイブリッドセラミックスインレーであれば、1本6万円で36万円かかること、上顎右6番について、@セラモメタルクラウンであれば12万円かかること、Aポーセレンジャケットクラウンであれば12万円かかること、Bハイブリッドセラミックスクラウンであれば8万円かかることを説明した。
これに対し、患者は、ハイブリッドセラミックスを使用するよう依頼し、支払方法については、20万円ずつ支払ってよいかと確認し、歯科医師はこれを了承した。

 争点及び裁判所の判断

争点1 前歯からの治療の必要性及び奥歯から治療することについての患者の同意

【裁判所の判断】
患者は、理想的な歯並びを実現するためには、前歯から治療する必要があったと主張し、また、歯科医師から、奥歯から治療する必要について、前歯のスペースが必要であるとの説明を受けず、奥歯の治療についての選択肢も示されなかったと主張する。
奥歯から治療することが、歯科医学的に不合理であるかについて検討すると、機械的咬合論に基づき、前歯誘導を付与するということが、直ちに前歯から治療していくことを意味するものであるということはできない。患者の症例(すべての歯の咬合箇所のエナメル質が溶解するなど、低位咬合になっている状態)において、前歯を大きく整形するためには、奥歯を挙上して、前歯のスペースを作る必要があると認められるから、本件においては、奥歯から治療する必要があったというべきである。奥歯から治療することが歯科医学的に不合理であるということはできず、したがって、理想的な歯並びを実現するためには、前歯から整形するべきであるという患者の主張は理由がない。
歯科医師は、患者に対し、奥歯から治療する必要があることについて、どの程度説明し、また、奥歯に使用する材質の選択についてどの程度説明したかについて検討すると、歯科医師は、患者に対し、奥歯から治療する必要性について、理由も付して十分に説明したと認めることができる。また、歯科医師は、患者に対し、奥歯を挙上する材質について、その利害得失を適切かつ十分に説明したと認めることができ、患者の主張は理由がない。
歯科医師は、患者に対し、奥歯から治療する必要性及び奥歯に使用する材質の選択について適切かつ十分な説明をしたものといえるから、奥歯から整形し、奥歯にハイブリッドセラミックスを使用することについて、患者が同意していないとの患者の主張を採用することはできない。

争点2 装着した患者の上顎左右2番が出っ歯であるか否か

【裁判所の判断】
患者は、歯科医師が、患者の上顎左右2番の本歯を出っ歯に整形したと主張する。
しかし、証拠によれば、患者の上顎左右2番は、解剖学的及び矯正学的にみて、出っ歯であるとは認められず、また、審美歯科的にも特段出っ歯であるとは認められない。

争点3 装着した患者の奥歯の破損の原因及びこれについての歯科医師の過失の有無

【裁判所の判断】
患者は、患者の上顎右6番及び上顎左右8番が破折したのは、歯科医師が、奥歯から治療したためであり、また、ハイブリッドセラミックスを使用したためであると主張する。
検討すると、平成7年5月17日、患者の上顎右6、7番に、同年10月23日、患者の上顎左6、7番にそれぞれハイブリッドセラミックスが装着されたこと、患者が、同年5月23日から同年10月16日までの約5箇月、同月23日から平成8年4月5日までの約5箇月、同月12日から平成9年3月13日までの約11箇月、同年5月6日から同年7月12日までの約2箇月、同月26日から平成10年5月20日までの約10箇月治療を中断していること、患者の上顎右6番及び7番にハイブリッドセラミックスが装着された後、患者が何度もすり減った即時重合レジンの補修を希望しており、また、平成7年3月28日の初診時において、患者の下顎左右6、7番には、メタルインレー(金属の詰め物)がされていたこと、患者が、当該歯科医師の治療を受けなくなった平成10年8月8日以降に、他の歯科医院において、下顎左右6、7番にくさびを打ち込むような急な咬頭をつけたメタルクラウンが入れられていることが認められる。
上記事実によれば、平成7年5月17日に装着された患者の上顎右6番が平成10年6月20日ころ破折したのは、患者による複数回にわたる長期の治療中断により、下顎右6番の即時重合レジンが摩耗して、下顎右6番のメタルインレーと上顎右6番のハイブリッドセラミックスが直接接触し、上顎右6番に応力が集中したためであると考えられ、また、同年10月23日に装着された患者の上顎左7番が平成12年ころ、上顎右7番が平成13年3月ころ破折したのは、他の歯科医院において、下顎の対向歯にメタルクラウンが装着されたため、上顎左右7番に応力が集中したためであると考えられる。
そして、患者の上顎右6番が破折したことについて、歯科医師に過失が存するかについて検討すると、患者の上顎右6番が破折したのは、もっぱら患者が自己の都合により治療を中断したことに原因があると認められるのであり、同様に患者の上顎左右7番が破折したことについても、患者が、歯科医院に通うのをやめた後に、他の歯科医院で装着した下顎左右6、7番のメタルクラウンが原因であるから、歯科医師に過失があったと認めることはできない。
患者の奥歯が破折したことについて、歯科医師に過失があったと認めることはできず、患者の主張は理由がない。

 判決:結論

原告の請求をいずれも棄却する。


審美治療の失敗、審美のトラブル、審美に関する訴訟、裁判に悩んでいる歯科医の方は、迷わずお電話を下さい。診療録などの証拠及び患者の主張内容などを確認聴取した上で、取るべき対応、留意点などを具体的アドバイス致します。


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