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補綴の歯科訴訟の判例をご紹介します。歯科トラブル、歯科訴訟、歯科裁判にお悩みの歯科医の方は、歯科医師のための弁護士、サンベル法律事務所に迷わずご相談下さい。

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歯科訴訟:補綴治療のミスと慢性根尖性歯周炎

補綴治療のトラブルに強い歯科医師のための弁護士です。

補綴に関する患者トラブルにお悩みの歯科医の方は、迷わずご相談下さい。初期対応が肝心です。まず弁護士に相談しアドバイスを受けることを強くお勧めします。

弁護士鈴木が力を入れている歯科医院法務に関するコラムです。
ここでは、歯科訴訟の判例のご紹介、ご説明を致します。


取り上げる判例は、平成22年11月29日東京地方裁判所の判決です。
なお、説明のために、事案を簡略化しています。

 事案の概要

歯科医院で歯に補綴物(ブリッジ、単冠、さし歯)を装着する治療を受けた患者が、歯科医師に、治療に際し、歯色の選択を誤った過失、事前のレントゲン検査等を怠った過失、適切な支台築造を怠った過失、補綴物の耐用年数を説明しなかった過失、保健療養上の指導を怠った過失があるなどと主張して、1850万2500円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求めた事案です。

事案の概要は以下のとおりです。

1 初診から平成15年までの診療経過

患者(昭和36年生まれ)は、平成10年9月2日、知人の歯科医師の歯科医院を初めて受診し診察を受けた。その際、別の歯科医院で作製した左右上顎1番から3番の上歯6本、右下4番(右側下顎第一小臼歯)から左下7番(左側下顎第二大臼歯)の下歯11本の各ブリッジをきれいに作り直すことを求め、歯科医師は「原価だけでやってあげる。」などと告げ、患者については特別に補綴物の材料費以外の治療費を徴収せずに診療を行うことを説明した。
歯科医師は、平成10年9月19日、完成したブリッジ(連結メタルボンド冠)を患者の左右上顎1番から3番の上歯6本に装着した。なお、患者は、当初A1カラーのブリッジを装着したいと希望していたが、歯科医師がこのとき装着したのはA3カラーのブリッジであった。
歯科医師は、平成13年2月17日、患者の口腔内を診察したところ、右下7番から左下4番と左下7番の下歯12本に歯槽膿漏が認められた。同部位の歯槽膿漏の程度は第1度(歯槽骨頂縁の骨皮質部分の異常と歯頸部にある歯根膜腔に変化を示す程度のものから、歯槽骨が歯根の長さの3分の1程度まで消失したものを指す。)であった。歯科医師は、患者の左下4番から7番の下歯4本にかけて、左下4番及び左下7番を支台歯とするブリッジを装着した。
歯科医師は、 平成13年3月13日、患者の口腔内を診察したところ、右上7番から左上7番の上歯14本に歯槽膿漏が認められた。同部位の歯槽膿漏の程度は第2度(歯槽骨が歯根の長さの2分の1程度まで消失したものを指す。)であった。歯科医師は、患者の右下5番から7番の下歯3本にかけて、右下5番及び右下7番を支台歯とするブリッジを装着した。

2 平成16年から転院までの診療経過

患者は、平成16年11月26日、歯科医師の診察を受け、その際、すべての補綴物の色、形及び角度をきれいに作り直したいと求めた。
歯科医師は、平成16年12月4日、患者の左上4番、左上5番、左上6番及び左上7番に単冠(メタルボンド冠)を装着した。なお、歯科医師がこのとき装着したのはすべてA3カラーの単冠であった。
歯科医師は、平成17年2月18日、患者の右上4番,右上5番及び右上6番に単冠(メタルボンド冠)を装着した。なお,被告がこのとき装着したのはすべてA3カラーの単冠であった。
患者は、平成17年11月12日、左右上顎1番から3番の上歯6本のブリッジが脱離したと訴えて歯科医師の診察を受けたが、その際、左右上顎1番から3番の上歯6本のみならず、右下4番から左下7番の下歯11本の各ブリッジをきれいに作り直すことを求めた。
歯科医師は、平成17年11月26日、患者の左右上顎1番から3番の上歯6本にかけて、右上1番、右上3番及び左上3番を支台歯とするブリッジを装着した
歯科医師は、平成18年1月21日、患者の右下4番から6番の下歯3本にかけて、右下4番及び右下6番を支台歯とするブリッジを装着した。
歯科医師は、 平成19年1月16日、患者の左右上顎1番から4番の上歯8本にかけて、右上1番、右上3番、右上4番、左上3番及び左上4番を支台歯とするブリッジ(連結メタルボンド冠)を装着した。その際、患者が「痛い。」と訴えると、歯科医師は「仮歯が合ってなかったのであろう。」と説明しただけで、何ら治療行為は行わなかった。
歯科医師は、平成19年3月10日ころ、患者が痛みを訴え続けたので、レントゲン検査を実施した。歯科医師は、その結果について「どこも悪いところはない。」と告げただけで、何ら治療行為は行わなかった。

3 転院後の診療経過

患者は、平成19年3月9日、右上3番及び左上4番が噛むと痛いとの主訴で他院を初めて受診して、他院の歯科医師の診察を受けた。他院の歯科医師は歯周基本検査を行い、患者の残存している歯のポケットはおおむね3〜4mm程度であると診断した。また、レントゲン検査の所見上、患者には全体的に歯槽骨の吸収が認められた。特に、患者の右上1番、右上4番、右上5番、左上4番、左上5番、左上7番及び左下5番の根尖部、左上3番の根管内部、右下1番の歯根周囲にそれぞれ透過像があると診断した。また、歯肉全体に発赤、腫脹を、左上4番には打診痛を認めたが、左右上顎1番から4番の上歯8本にはブリッジが装着されているため、その病態を詳細に診断することはできなかった。他院の歯科医師は、患者に対し、左右上顎1番から4番の上歯8本のブリッジについては、支台歯である右上1番及び左上3番を保存できないことも考えられ、これらを抜歯した場合にはブリッジを再度装着することはできないから、義歯又はインプラントの方法で修復しなければならなくなることを説明した。
患者は、平成19年5月26日、左下4番が痛いとの主訴で他院の歯科医師の診察を受け、他院の歯科医師は、左下4番について、レントゲン検査の所見で根尖部に透過像を認めるとともに、根尖部付近の歯肉に圧痛も認めた。
他院の歯科医師は、平成19年6月18日、治療を開始することとし、右下5番から7番の下歯3本のブリッジを切断した上で、右下5番について冠の除去及び抜髄左下3番から7番の下歯5本のブリッジを切断した上で、左下3番及び左下4番につき冠の除去及び感染根管処置をそれぞれ行った。
他院の歯科医師は、平成19年7月13日、右下3番、右下4番、右下5番、右下7番、左下3番及び左下4番について根管充填をそれぞれ行った。
他院の歯科医師は、平成19年7月20日、次のとおり記載した診断書を作成し、これを患者に交付した。
@ 右上1番、4番、5番 慢性根尖性歯周炎
A 左上4番、5番、7番 慢性根尖性歯周炎
B 左上3番 急性根尖性歯周炎 → 慢性根尖性歯周炎
C 右下7番 慢性根尖性歯周炎及び遠心部慢性辺縁性歯周炎
D 右下5番 歯髄壊疽
E 右下2番 慢性根尖性歯周炎
F 右下1番 慢性根尖性歯周炎、歯牙ハセツの疑い
G 左下3番、4番 急性根尖性歯周炎
H 左下BC56Fのブリッジ ポンティック部ポーセレンハセツ
I 低位咬合 咬合高径(咬み合わせの高さ)低い
J Iに起因する左顎関節症
K 精神的ダメージによる不定愁訴

その後、患者は、平成20年8月22日まで係る他院に通院したが、現在は別の歯科医院に通院している。被告歯科医師が左右上顎1番から4番の上歯8本に装着したブリッジについては、現在も除去せずに装着している。

 争点及び裁判所の判断

争点1 各ブリッジについて歯色の選択を誤った過失

【裁判所の判断】
患者が当初A1カラーのブリッジを装着したいと希望していた事実が認められるとしても、歯科医師は、患者の同意を得て白色の程度を落としたA3カラーのブリッジを上歯に、A2カラーのブリッジを下歯にそれぞれ装着したと認められるから、このことが患者に対する診療上の過失を構成するとはいい難い。

争点2 各単冠について事前のレントゲン検査及び適切な支台築造を怠った過失

【裁判所の判断】
歯科医師は、患者に単冠を装着する際に撮影したレントゲン写真を証拠として提出することはできない旨を供述し、単冠を装着する際にレントゲン撮影を実施したと認めるに足りる証拠はなく、以上によれば、歯科医師には、単冠を保持するに足りる支台築造をするため、事前にレントゲン撮影等を実施した上で、う蝕、歯髄炎、根尖性歯周炎等の疑いがあれば適切に治療しておくべき義務があったにもかかわらず、この義務を怠った過失がある。
なお、当時、慢性根尖性歯周炎など歯内治療を必要とする疾患の発症を疑わせるような事情が存在したものと認めることはできず、歯科医師に根管充填等の歯内治療をして単冠を保持するに足りる支台築造をしなかった過失があるということはできない。

争点3 ブリッジについて事前のレントゲン検査及び適切な支台築造を怠った過失

【裁判所の判断】
歯科医師は、患者にブリッジを装着する際に撮影したレントゲン写真を証拠として提出することはできない旨を供述し、ブリッジを装着する際にレントゲン撮影を実施したと認めるに足りる証拠はなく、以上によれば、歯科医師には、ブリッジの支台歯を保持するに足りる支台築造をするため、事前にレントゲン撮影等を実施した上で、う蝕、歯髄炎、根尖性歯周炎等の疑いがあれば適切に治療しておくべき義務があったにもかかわらず、この義務を怠った過失がある。
また、歯科医師には、ブリッジの支台歯を保持するに足りる支台築造をするため、根管充填等の歯内治療を行うべき義務があったにもかかわらず、この義務を怠った過失がある。

争点4 補綴物の耐用年数を説明しなかった過失

【裁判所の判断】
補綴物の耐用年数は、科学的な根拠に基づくものではなく、患者の口腔内の状況によっても左右されるものであるから、そもそも補綴物の耐用年数を確定すること自体が困難である。そうすると、補綴物の耐用年数を説明すべき義務を想定すること自体が困難であるといわざるを得ず、補綴物の耐用年数を説明すべき義務があったとはいえない。

争点5 保健療養上の指導を怠った過失

【裁判所の判断】
患者は、歯科医師には、補綴物のブラッシングやメンテナンス等の必要性について指導及び説明すべき義務があったにもかかわらず、これを怠った過失があると主張するが、歯科医師は、患者に対し、歯周組織検査を行って歯槽膿漏の程度
を診断し、スケーリング等の処置を行ったことが認められるところ、これらの検査、処置は患者の補綴物のブラッシング、メンテナンスの一環として行われたものと推測され、その実施に当たっては、歯科医師から患者に対してかかる趣旨も説明されていると見るのが自然であるから、歯科医師は、患者に対し、補綴物のブラッシングやメンテナンス等の必要性について指導及び説明すべき義務を果たしたものというべきである。

争点6 因果関係

【裁判所の判断】
単冠について事前のレントゲン検査等を怠った過失と、患者の現在の慢性根尖性歯周炎との因果関係は認められない。
ブリッジについて事前のレントゲン検査等及び根管充填等の歯内治療を怠った過失と、患者の慢性根尖性歯周炎及び根管内のカリエス発症による抜歯との因果関係は認められる。

争点7 患者の損害

【裁判所の判断】
合計               242万1950円
 内訳 ブリッジ代金相当額の損害  40万0000円
    他院での治療費          1950円
    慰謝料          180万0000円
    弁護士費用         22万0000円

 判決:結論

被告は、原告に対し、242万1950円及びこれに対する平成20年5月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。


補綴治療や慢性根尖性歯周炎のトラブル、歯科訴訟、歯科裁判に悩んでいる歯科医の方は、迷わずお電話を下さい。診療録などの証拠及び患者の主張内容などを十分に確認聴取した上で、取るべき対応、留意点などを具体的にアドバイス致します。


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