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インプラントと神経損傷の判例をご紹介します。歯科トラブル、歯科訴訟、歯科裁判にお悩みの歯科医の方は、歯科医師のための弁護士、サンベル法律事務所に迷わずご相談下さい。

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歯科訴訟:インプラント手術と神経損傷

インプラント治療のトラブルに強い、歯科医師のための弁護士です。

インプラントに関する患者トラブルにお悩みの歯科医師の方は、迷わずご相談下さい。初期対応が肝心です。まず弁護士に相談しアドバイスを受けることを強くお勧めします。

弁護士鈴木が力を入れている歯科医院法務に関するコラムです。
ここでは、歯科訴訟の判例のご紹介、ご説明を致します。


取り上げる判例は、平成20年12月24日東京地方裁判所の判決です。
なお、説明のために、事案等の簡略化をしています。

 事案の概要

患者が、歯科医院においてインプラント手術を受けたところ、歯科医師の説明義務違反、手術前にCTを撮影せず、下顎管ないしオトガイ孔までの距離を正確に把握せずに手術を行った過失、又は、手技上の過失によって左下歯槽神経を損傷され、神経麻痺による左下口唇、左オトガイ部の知覚異常及びアロディニアの後遺障害が残ったとして、1941万円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求めた事案です。

事案の概要は以下のとおりです。

1 患者の転院までの診療経過

患者(昭和25年生まれの男性)は、平成14年1月19日、虫歯の治療のために歯科医院を受診し、勤務歯科医師により、右上犬歯の虫歯(う蝕)の治療等を受け、同年2月2日には、左下第二小臼歯について、抜歯、歯根膿胞摘出の処置を受けた。
患者は、平成14年2月13日、左下5番の歯に相当する部分及び左下6番の歯に相当する部分に対して、インプラント体を各1本ずつ埋め込む手術を受けた。
患者が、手術後、左下口唇から左オトガイ部にかけて麻痺感があると訴えたため、平成14年2月26日、歯科医院において、左下5番相当部のインプラント体が除去された。
患者は、その後も、平成14年3月2日から平成18年4月8日までの間、歯科医院に通院して麻痺感等に対する診療を受けた。

2 患者の他院での診療経過

患者は、平成14年11月27日、病院を受診し、左側三叉神経第3枝知覚異常(オトガイ神経領域)の診断を受け、同日から同年12月13日までの間、同病院に通院し、星状神経節ブロック(星状神経節に対する麻酔薬の注射)等の治療を受けた。
患者は、平成14年12月21日から平成18年4月22日までの間、他の歯科病院に通院して治療を受け、同日、左側オトガイ神経知覚異常の診断を受け、平成20年2月22日には、病院口腔外科所属の歯科医師から、左オトガイ神経知覚麻痺による咀嚼機能障害の診断を受けた。
患者は、平成16年8月7日から平成20年3月29日までの間、別の病院の精神神経科に通院し、うつ病の治療を受け、平成18年4月22日、抑うつ状態の診断を受けた。
患者は、平成18年3月4日から平成19年2月17日までの間、さらに別の病院に通院して歯科治療を受け、平成18年4月15日、左下顎神経麻痺の診断を受け、平成19年8月4日には、左下歯槽神経麻痺の診断を受けた
患者は、平成19年5月19日から平成20年9月6日までの間、病院の麻酔科ペインクリニックに通院して治療を受け、平成19年6月16日、複雑性局所疼痛症候群の診断を受け、同年11月24日には、複合性局所疼痛症候群(左下口唇、オトガイ部)の診断を受けた。
患者は、平成19年10月27日、別の病院の口腔外科を受診し、同年11月1日、左オトガイ神経知覚障害の診断を受けた。

3 患者の現在の症状

患者は、現在、左下口唇部にビリビリ感及び麻痺感が残存しているものの、本件手術直後である平成14年ころと比べると、痛みの感覚に慣れてきており、痛みが軽減するときもある。左オトガイ部には麻痺感、感覚の鈍さがあるが、疼痛はない。
患者は、味覚は正常であり、流涎もなく、言語障害も認められず、滑舌が悪いとも認められない。さらに、冷たいものを飲むことはできるが、氷を頬張ることなどはできない。熱いものについては、口の中に入れることができ、ストローを用いて飲むことなどはできるが、唇に当たるとつらいことがある。
患者は、現在も抑うつ状態にあるものの、抗うつ剤及び精神安定剤の服用により抑うつ症状を緩和・改善させることができ、これにより通常の社会生活を送ることができていることが認められる。

 争点及び裁判所の判断

争点1 説明義務違反の有無

【裁判所の判断】
患者は、担当歯科医師は、患者に対し、本件手術前に、インプラント手術にはリスクがないと説明し、同手術により左下口唇、左オトガイ部の知覚異常、アロディニアといった症状が出る可能性があることを説明すべき義務を怠ったと主張する。
裁判所が認定した事実によれば、本件手術は、患者の左下5番相当部及び左下6番相当部に対して、インプラント体を各1本ずつ埋め込むインプラント手術であり、オトガイ孔は下顎体のほぼ中央の高さで第二小臼歯根端の直下にある場合が多いため、オトガイ孔に達しない長さのインプラント体を選択する必要があること、そして、担当歯科医師は、原告の左下5番の歯の根尖部分に骨破壊像があったことから、その部分には骨組織が存在しないと考え、左下5番相当部に埋入するインプラント体を歯槽骨に保持させるためには、通常よりも長い長さ18mmのインプラント体を選択し、これを歯槽骨に斜めに埋入することが適切であると判断したこと、左下5番相当部にドリリング及びインプラント体の埋入をした際、ドリリング及びインプラント体の埋入をするに当たり角度を十分につけなかったために、左オトガイ孔付近の下歯槽神経の圧迫を生じさせ、同神経を損傷したことが認められる。
これらの事実からすると,担当歯科医師には、本件手術前に、同手術を受けるか否かを選択させる前提として、原告の口腔内の状態、本件手術の内容及び必要性、本件手術による神経損傷の危険性及び予後等について、原告がインプラント手術に関する十分な情報に基づいて本件手術を受けるか否かを決定できるよう、相当程度詳細に説明すべき義務があったというべきである。
ところが、担当歯科医師は、左下5番の歯を抜去した後の処置について、入れ歯やインプラント手術が考えられるが、インプラントであれば入れ歯のような違和感や取り外す面倒がなく、かつ、周りの歯を歯根破折で失うリスクを軽減できるとの説明をし、インプラント手術に伴うリスクとして、抜歯の場合と同様に、外科的手術に伴う出血、痛み及び腫れが生じる可能性があることについて説明しただけで、神経損傷や神経麻痺が生じる可能性があることなどについては説明しなかったことが認められる。
したがって、担当歯科医師には、説明義務違反があった。

争点2 CT撮影せず下顎管ないしオトガイ孔までの距離を把握せずに手術を行った注意義務違反の有無

【裁判所の判断】
患者は、担当歯科医師には、インプラント体がオトガイ神経を損傷しないように、オトガイ孔から適切な距離を取るため、インプラント手術前にCTを撮影する義務があったにもかかわらず、CTを撮影せず、また、パノラマレントゲン写真を撮影したとしても、メジャーテープを用いなかったから、下顎管ないしオトガイ孔までの距離を正確に把握せずに本件手術を行った注意義務違反があると主張する。
裁判所が認定した事実によれば、下顎管やオトガイ孔からインプラント体先端部までの適切な距離を取るため、CT撮影による三次元的診断を行うことが望ましいとはいえるものの、他方、メジャーテープを用いたパノラマレントゲン写真により距離を確認するのも有用であるとされていることが認められるところ、担当歯科医師は、本件手術に先立ち、パノラマレントゲン写真及びデンタルX線写真を撮影し、パノラマレントゲン写真上にメジャーテープを当てて、下顎管ないしオトガイ孔までの距離を測定し、骨の幅について、触診や口腔内所見(肉眼)により確認しており、担当歯科医師に、下顎管ないしオトガイ孔までの距離を正確に把握せずに本件手術を行った注意義務違反があるとは認められない。

争点3 技術的ミスで下歯槽神経を損傷した注意義務違反の有無

【裁判所の判断】
患者は、担当歯科医師は、長すぎるインプラント体(18mm)を用い、あるいは、十分な角度をつけてドリリングやインプラント体の埋入をしなかったなどの本件手術における技術的なミスにより、ドリル、タッピング用器具、インプラント体などを突き刺し、あるいはオトガイ孔近接を生じさせて、患者の左下歯槽神経を損傷したと主張する。
担当歯科医師は、オトガイ孔が直下にある場合の多い左下5番相当部に18mmという通常よりも長いインプラント体を埋入することにしたのであるから、人工歯根としてこのようなインプラント体を用いる場合には、特にオトガイ孔付近の下歯槽神経を損傷しないように、十分な角度をつけてドリリング及びインプラント体の埋入を行うべき注意義務があったというべきである。ところが、担当歯科医師は、上記インプラント体を埋入するに当たり、上記注意義務を怠り、十分な角度をつけてドリリング及びインプラント体の埋入を行わなかったため、ドリリングあるいはインプラント体によりオトガイ孔付近の下歯槽神経を圧迫し、同神経を損傷したことが認められる。したがって、担当歯科医師には、長さ18mmのインプラント体を患者の左下5番相当部に埋入するに当たり、十分な角度をつけてドリリング及びインプラント体の埋入を行うべき注意義務を怠った点について過失があるというべきである。

争点4 因果関係の有無

【裁判所の判断】
患者は、上記説明義務違反がなければ、患者が本件手術を受けることはなく、後遺障害等が発生することもなかったと主張する。しかし、患者自身が、その本人尋問において、本件手術の危険性等についての説明を受けていれば、インプラントではなく入れ歯を選択したかもしれないと供述する一方で、担当歯科医師を信頼していた場合には手術の危険性等について説明があったとしても本件手術を受けたかもしれないと供述するとともに、本件手術当時は、担当歯科医師を信頼していたと供述していることに鑑みれば、本件手術の内容、本件手術の危険性及び予後等について必要十分な説明をしていたとしても、患者が本件手術を受けた可能性は十分に考えられる。そうすると、説明義務違反と患者が主張する後遺障害等との間に因果関係があるとは認めることができない。
本件手術における担当歯科医師の上記注意義務違反による左下歯槽神経損傷により、上記患者の現在の症状が現存していることが認められる。

争点5 患者の損害

【裁判所の判断】
合計          376万2860円
 内訳 治療費及び交通費 17万2860円
    休業損害     29万0000円
    後遺障害慰謝料 140万0000円
    通院慰謝料   160万0000円
    弁護士費用    30万0000円

 判決:結論

被告は、原告に対し、376万2860円及びこれに対する平成18年10月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。


インプラント手術による神経損傷のトラブル、神経損傷の訴訟、インプラント裁判に悩んでいる歯科医の方は、迷わずお電話を下さい。診療録などの証拠及び患者の主張内容などを十分に確認聴取した上で、取るべき対応、留意点などを具体的にアドバイス致します。


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