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アナフィラキシーショックの歯科訴訟の判例をご紹介します。歯科トラブル、歯科訴訟、歯科裁判にお悩みの歯科医の方は、歯科医師のための弁護士、サンベル法律事務所に迷わずご相談下さい。

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歯科訴訟:アナフィラキシーショックによる死亡

歯科医療トラブルに強い、歯科医師のための弁護士です。

アナフィラキシーショックの患者トラブルにお悩みの歯科医師の方は、迷わずご相談下さい。初期対応が肝心です。まず弁護士に相談しアドバイスを受けることを強くお勧めします。

弁護士鈴木が力を入れている歯科医院法務に関するコラムです。
ここでは、歯科訴訟の判例のご紹介、ご説明を致します。


取り上げる判例は、平成22年12月16日さいたま地方裁判所の判決です。
なお、説明のために、事案等の簡略化をしています。

 事案の概要

当時4歳であった患者が、埼玉県の歯科医院において虫歯治療を受けた際に、局所麻酔剤を原因とするアナフィラキシーショックにより呼吸循環不全に陥り、搬送先の病院で死亡したのは、歯科医師が局所麻酔剤投与後に患者のバイタルサインを観察する義務を怠ったこと又は歯科医師が迅速かつ適切な救急処置を怠ったことが原因であるとして、7837万1074円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求めた事案です。

事案の概要は以下のとおりです。

1 アナフィラキシーショック発症までの診療経過

患者(4歳)は、平成14年5月14日、親と共に、歯科医院に初診来院し、歯科治療を受けた。
歯科医師は、同日、患者の歯科治療に先立ち、診療アンケートを実施して患者のアレルギーの有無について確認したところ、薬物アレルギーはないとの回答があった。
患者は、平成14年6月15日午後4時20分ころ、治療のため歯科医院を訪れ、診療室に入室した。
患者の親は、歯科医師から指示を受け、患者の診療中、診療台の横に膝をついて座り、患者の足下の方から患者の体を押さえていた。
歯科医師は、午後4時25分ころ、患者に対し、オーラ注1.0mgのうちごく少量を注射し、約30秒後、患者に異常な徴候が生じないことを確認し、さらに残量を注射した。歯科医師は、午後4時26分ころ、患者にラバーダムを装着しようとしたが、なかなかラバーダムを装着することができず、午後4時33分ころになってようやく患者に緑色のラバーダムを装着した。ラバーダム装着後、歯科医師は、患者の歯科治療を開始した。
患者は、午後4時36分ころには泣いていたが、歯髄除去が行われる午後4時38分ころには泣きやんだ。同時刻ころ、歯科医師は、患者がいつの間にか泣きやんだことに気がついたが、オーラ注の影響により患者が眠ったものと判断し、患者が眠っている間に治療を進めようと考え、呼びかけに対する反応を確認することはせず、また、患者が鼻や口から呼吸をしているかどうかを確認したり、患者の脈を取ることもなく、患者の治療を継続した。
患者は、午後4時38分ころ、オーラ注を原因とするアナフィラキシーショックを発症し、直ちにアナフィラキシーショックを原因とする呼吸停止状態から低酸素血症による血圧低下を起こし、同時に、循環虚脱に陥り心肺停止状態となった。なお、患者のアナフィラキシーショックは、皮膚・粘膜等に症状が発現する間もなく、直ちに呼吸停止から循環虚脱に陥る重篤なものであり、患者にアナフィラキシーショックの皮膚所見は現れなかった。

2 アナフィラキシーショック発症後の診療経過

歯科医師は、患者の治療中、治療器具を変える度に患者の顔や唇を観察し、手を患者の下顎に触れながら患者の治療を行っていたが、午後4時57分ころまでの間、患者の異常に気がつかなかった。
歯科医師は、午後4時57分ころ、患者の顔面が蒼白になっていることに気がつき、患者のラバーダム及びバイトブロックを外して口腔内に異物がないかどうかを確認した。歯科医師は、午後4時58分ころ、歯科助手に救急車を呼ぶよう指示した。
同時刻ころ,看護師経験のあるその場にたまたま居合わせた他の患者が、歯科医師の上記指示を聞きつけ、「看護師です。」と言って診療室に入室し、患者の症状について、心肺停止状態であることを確認し、マウス・ツー・マウスによる人工呼吸を施した。歯科医師は、歯科医院の納戸に酸素吸入器を取りに行ったが、患者が自発呼吸をしていなかったため、酸素吸入器は使用せず、救急車が到着する午後5時2分までの間、居合わせた看護師とともに人工呼吸及び非開胸式心マッサージを施した。
午後5時2分、歯科医院に救急車が到着し、歯科医師及び救急隊員によりアンビューバッグによる人工呼吸が行われた。歯科医院に到着した救急車は、午後5時6分、患者を収容して歯科医院を出発し、午後5時7分に病院に到着した。病院では、患者に対し心肺蘇生術が施されたが、午後5時42分、患者の死亡が確認された。

 争点及び裁判所の判断

争点1 バイタルサインを観察する義務を怠った過失

【裁判所の判断】
歯科医師は、副作用としてアナフィラキシーショックを発症する可能性のある局所麻酔剤を歯科治療に使用する場合には、治療中、患者が重篤なアナフィラキシーショックを発症した場合でもその症状を早期に確知認識することができるように、患者の観察等によりバイタルサインを確認すべき注意義務を負っている。
本件では、患者の治療のためにバイトブロック及びラバーダムが使用されており、これらの器具を治療に使用している場合には、ラバーダムにより患者の顔の一部、特に口唇が隠れ、さらにバイトブロックにより患者の下顎の開閉運動が制限され疼痛時の反応や睡眠中の不随運動が判明しにくくなるのであるから、歯科医師は、通常よりも注意深く患者のバイタルサインを観察し、さらに観察以外の方法も併用することにより、患者のバイタルサインを把握しておく必要があったというべきである。特に、午後4時38分ころには、それまで泣いていた患者が泣きやんだのであるから、同時刻ころにこのような患者の変化を察知した歯科医師としては,患者に声をかけて無理に反応を見ようとする必要まではなかったものの、バイトブロック及びラバーダムを着用した状態の患者の顔や唇を観察するだけではなく、患者の変化が入眠したことによるものなのか、何らかの異常が生じたことによるものなのかを鑑別すべく、患者の鼻や口に手をかざすなどの方法により患者が鼻や口のすき間から呼吸をしているかどうかを確認し、場合によっては手を止めて脈を取るなど、入念に患者のバイタルサインの確認を行う必要があった。これらの方法により患者が泣きやんだ原因を確認することなく患者が入眠したものと判断し、治療を継続したというのであるから、歯科医師は、バイタルサイン観察義務を怠ったといわざるを得ない。

争点2 迅速・適切な救急措置を行うべき義務を怠った過失

【裁判所の判断】
治療中に患者がアナフィラキシーショックに陥った場合には、歯科医師は、早期に、徒手あるいはマスク・バッグ、エアウェイによる気道確保、酸素投与、非開胸式心マッサージなどの処置を行うべき注意義務を負っている。
本件では、歯科医師は、患者の異常に気がついた後、より高度な救命措置が可能な医療機関に患者を搬送すべく救急車を呼ぶように指示したことは適切な判断であり、また、患者に対する人工呼吸は、異常の発見後迅速に行われており、かつ、歯科医師が取りに行った酸素吸入器は結果的には患者に適合しなかったが係る判断が不適切であったとまでは言えないのであって、歯科医師が患者への迅速かつ適切な救急処置を行うべき注意義務を怠った過失は認められない。

争点3 過失と患者の死亡との因果関係、相当程度の可能性

【裁判所の判断】
歯科医師がバイタルサイン観察義務を尽くしていれば、患者の死亡時において患者が生存していた高度の蓋然性があるとはいえず、歯科医師の過失と患者の死亡との間に因果関係は認められない。
しかし、歯科医師がバイタルサイン観察義務を尽くしていれば、患者の死亡時において患者が生存していた相当程度の可能性があったものと認めることができる。

争点4 患者の損害

【裁判所の判断】
合計       440万0000円
 内訳 慰謝料  400万0000円
    弁護士費用 40万0000円

 判決:結論

被告は、原告に対し、440万円及びこれに対する平成14年6月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。


アナフィラキシーショックのトラブル、アナフィラキシーの訴訟、裁判に悩んでいる歯科医の方は、迷わずお電話を下さい。診療録などの証拠及び患者の主張内容などを確認聴取した上で、取るべき対応、留意点などをアドバイス致します。


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