歯科の医道審議会の書籍を出版し、行政処分(免許取り消し、歯科医業停止)に強い、弁護士の鈴木陽介です。
歯科の行政処分の対応は、弁護士に依頼すべきです。
ここでは、医業停止処分の停止期間経過後の、取消訴訟の訴えの利益に係る判例をご説明します。昭和56年12月18日最高裁判所の判決、及び、昭和55年8月25日新潟地方裁判所の判決です。説明のため、事案の簡略化等をしています。
行政処分・医道審議会(歯科)については、以下のコラムもご覧いただければ幸いです。
【コラム】歯科医への行政処分、医道審議会の上手な対応法
医業停止処分の停止期間経過後の取消訴訟の訴えの利益
1 最高裁判所判決:昭和56年12月18日
1 判示事項
医業停止処分後停止期間が経過した場合に当該処分の取消を求める訴えの利益。
2 判示要旨
医業停止処分を受けた者は、当該停止期間が経過したときは、当該処分の取消によつて回復すべき法律上の利益を有しない。
3 判決:主文本件上告を棄却する。
4 判決:理由
本件医業停止処分について上告人が行政事件訴訟法九条括弧書にいう「処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益」を有しないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
2 新潟地方裁判所判決:昭和55年8月25日
1 判示事項・要旨
医業停止処分の取消しを求める訴えは、医業停止期間が経過した後には訴えの利益を欠くとした事例。
2 判決:主文
本件訴を却下する。
3 判決:理由
被告が昭和五四年六月八日付で、医師である原告に対し、同月一五日から同年九月一四日まで医業停止を命ずる旨の本件処分をなしたことは、当事者間に争いがない。
そこでまず、本件処分による医業停止期間が既に経過している本件口頭弁論終結時(昭和五五年七月七日)において、なお原告が本件処分の取消を求める法律上の利益を有するか否かについて検討する。
行政処分の取消の訴は、当該処分の効果が期間の経過その他の理由により消滅した後においても、なお法律上の利益を有する者に限り、これを提起することができるとされているところ、右法律上の利益とは当該処分の直接的効果としての不利益が何等かの具体的な法律関係において残存し、且つ、当該処分を取消さなければ右不利益が除去されない状態にある場合をいうものと解すべきである。
そこで、原告の主張につき順次検討するに、まず、本件処分が将来において原告の受ける可能性のある同種の制裁的処分の際に加重事由になる旨の主張については、医師法中にも、また関連法規の中にも、本件処分をその法定の加重要件とする法条は存在しないのであるから、仮りに原告が将来受ける可能性のある制裁的処分の際に本件処分が不利益に考慮される虞れが存するとしても、それは情状として事実上考慮される蓋然性があるにすぎず、法律上の不利益とはいい難いものである。次に、原告は、本件処分によつて業務上の信用が低下し、原告又は原告の所属する医療機関が経済的不利益を受け、また、本件処分が報道され、医籍に登録されたため、原告の名誉が毀損されたから、右の経済的利益及び人格的利益の侵害の回復を図るため本件処分の取消を求める必要がある旨主張する。しかしながら、仮りに原告主張のように経済的利益及び人格的利益が侵害されたとしても、それは本件処分の直接的効果ではなく、不利益処分に多少とも共通して伴う副次的な結果にすぎないものであるから、行政事件訴訟法九条括孤書において法が特に要求した法律上の利益を根拠づけるに足りないというべきである。しかも、右のような侵害の回復は、既に医業停止期間の経過した本件処分の取消によつてではなく、国家賠償法上の損害賠償請求訴訟によつて直截的にその救済を求めることができ、且つこれをもつて足りるものというべきである。
原告は、本件処分の取消によつて回復すべき法律上の利益を有せず、したがつて本件訴は訴の利益を欠くものといわざるを得ない。以上の次第で本件訴は、不適法であるから、本案について判断するまでもなく、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用し、主文のとおり判決する。
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