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強制わいせつでの医道審議会の医師免許取り消しの、取消訴訟の判例です。行政処分の取り消し訴訟は、歯科医の行政処分に強い弁護士にご相談下さい。

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1 医道審議会の判例(1):行政処分(医師免許取消)の取消訴訟

歯科の医道審議会の書籍を出版し、歯科医の行政処分に強い、弁護士の鈴木陽介です。

行政処分(歯科)の対応は、弁護士に依頼すべきです。

ここでは、医師の強制わいせつによる医道審議会の医師免許取消しの行政処分についての、取消請求事件の判例をご説明します。平成20年2月28日名古屋地方裁判所の判決です。説明のため、事案の簡略化等をしています。

行政処分・医道審議会(歯科)については、以下のコラムもご覧いただければ幸いです。

【コラム】歯科医への行政処分、医道審議会の上手な対応法

行政処分(医師免許取消)の取消訴訟の実例


 1 事案の概要

医師免許を取得して精神科の診療に従事していた医師が、患者に対する強制わいせつ行為等により有罪判決の言渡しを受け、厚生労働大臣(処分行政庁)により医師免許を取り消す旨の処分(以下「本件処分」という。)を受けたことから、本件処分の違法を主張してその取消しを求めている事案です。

事案の概要は以下のとおりです。

1 本件医師の身上
原告医師(昭和26年生,以下「本件医師」という。)は、医師免許を取得し、犯行当時、医療法人(当時の代表者理事長は本件医師)が開設するクリニック(以下「本件クリニック」という。)において、精神科医師として診療に携わっていた者である。本件医師には、妻との間に二男二女がある。

2 懲役1年8月、執行猶予4年の有罪判決
本件医師は、平成17年10月、名古屋地方裁判所岡崎支部において、診療中の女性患者3名に対し、乳房を揉んだり陰部を触るなどした強制わいせつ及び準強制わいせつの罪により、懲役1年8月の実刑判決(同支部平成17年(わ)第316号,第386号,第440号)の言渡しを受け(以下「本件各犯行」という。)、これを不服として控訴したところ、平成18年5月、名古屋高等裁判所において、懲役1年8月、執行猶予4年の判決(同裁判所平成17年(う)第704号)の言渡しを受けた。

名古屋高等裁判所は、同判決において、@本件各犯行は、同種の犯罪を3度にわたって繰り返したもので常習性が認められ、動機において酌むべき点がない上、被害者らが本件医師を主治医として全幅の信頼を寄せていたことを悪用した点で誠に卑劣であること、A患者らは医師を信頼しているからこそ、自己の秘密を打ち明け、身体を診せ、時には侵襲行為をも受忍するのであって、そのような行為を預かる医師には高度の倫理性が求められ、それと引換えに高い社会的評価を受けているのであるが、本件各犯行は、そのような前提を根底から揺るがしかねないものであって、行きずりの当事者間の強制わいせつ行為等と比して社会的影響が大であること、B被害者らが感じた屈辱、羞恥、恐怖等の精神的苦痛も当然大きく、患者の身でありながら、主治医の本件医師を告訴するには大きな苦悩と葛藤があったことも容易に想像がつくこと、C被害者らとの間で示談が成立し、いずれ医師免許に対する行政処分が予想されていること、前科前歴のないことなどの有利な事情を考慮しても、本件各犯行が地位を悪用した卑劣な犯罪で被害者が3名に達する累行された事案であることによれば、当然に執行猶予相当であるとはいえないこと、Dしかし、本件医師が第1審判決後も厳しい社会的非難にさらされ続け、改めて自らの不明を恥じ、反省の情を深め、100万円の贖罪寄附をしたことを併せ考えると、社会内での更生の機会を与えることが相当であることなどを指摘した。

同判決は、双方から上告等もなく、確定した。

なお、本件医師は、平成17年4月に逮捕されてその後勾留され、第1審係属中の同年7月に保釈され、実刑判決の言渡しにより保釈が失効して収容されたが、5日後に再度保釈された。また、本件医師は、逮捕直後ころ、愛知県弁護士会所属弁護士を弁護人に選任し、第1審においてその弁護を受けたが、第1審判決直後ころ、弁護士を替えて、同弁護士会所属弁護士を他の弁護士を弁護人に選任し、控訴審においてその弁護を受けた。そして、本件医師は、第1審係属中の同年7月上旬、被害者A及びCに各300万円の慰謝料を支払い、被害者Bに350万円の慰謝料を支払って、被害者らと示談し、控訴審係属中の平成18年2月及び4月に法律扶助協会に対し合計100万円の贖罪寄附をした。

3 免許取消しの行政処分
厚生労働大臣は、平成19年2月、本件医師が上記有罪判決を受けて医師法(平成18年法律第84号による改正前のもの。以下同じ。)4条3号に該当することを理由として、同法7条2項の規定に基づき、平成19年3月をもって、本件医師の医師免許を取り消す旨の処分(本件処分)をした。

なお、厚生労働大臣は、本件処分をするに当たり、平成18年11月、愛知県知事に対し、本件医師の意見を聴取するよう依頼し、同県健康福祉部健康担当局医務国保課主査において、平成19年1月、本件医師及びその代理人弁護士から意見を聴取した上、同知事は、同月、同大臣に対し、「当事者は、事件後誠意を尽くして対応しているものと認められます。」との意見書を提出した。そして、同大臣は、同年2月、医道審議会に対し、本件医師に対する行政処分について意見を求めたところ、同審議会医道分科会長は、本件医師につき「免許取消」との答申をした。

 2 争点及び裁判所の判断

争点1 本件処分の実体的適法性の有無
【裁判所の判断】
医師法7条2項は、医師が「罰金以上の刑に処せられた者」(同法4条3号)に該当するときは、厚生労働大臣は、その免許を取り消し、又は期間を定めて医業の停止を命ずることができる旨定めているが、この規定は、医師が同号の規定に該当することから、医師として品位を欠き人格的に適格性を有しないものと認められる場合には医師の資格を剥奪し、そうまでいえないとしても、医師としての品位を損ない、あるいは医師の職業倫理に違背したものと認められる場合には一定期間医業の停止を命じて反省を促すべきものとし、これによって医療等の業務が適正に行われることを期するものであると解される。

したがって、医師が同号の規定に該当する場合に、免許を取り消し、又は医業の停止を命ずるかどうか、また、医業の停止を命ずるとしてその期間をどの程度にするかということは、当該刑事罰の対象となった行為の種類、性質、違法性の程度、動機、目的、影響のほか、当該医師の性格、処分歴、反省の程度等、諸般の事情を考慮し、同法7条2項の規定の趣旨に照らして判断すべきものであり、その判断は、厚生労働省設置法10条2項、医道審議会令(平成12年政令第285号)の規定に基づき設置された医道審議会の意見を聴く前提の下で、医師免許の免許権者である厚生労働大臣の合理的な裁量にゆだねられているものと解される。そうすると、厚生労働大臣がその裁量権の行使としてした医師免許の取消し又は医業の停止を命ずる処分は、それが社会観念上著しく妥当性を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し又はこれを濫用したと認められる場合でない限り、これを違法ということはできないと解される(最高裁昭和61年(行ツ)第90号同63年7月1日第二小法廷判決・判例時報1342号68頁参照)。

本件医師は、平成18年5月、本件各犯行に係る強制わいせつ及び準強制わいせつの罪により、懲役1年8月、執行猶予4年の判決の言渡しを受けて、同判決が確定し、「罰金以上の刑に処せられた者」(医師法4条3号)に該当するから、厚生労働大臣は、本件医師に対して、医師免許を取り消し又は期間を定めて医業の停止を命ずることができる(同法7条2項)。そして、上記で述べたとおり、本件医師に対して、免許を取消し又は医業の停止を命ずるかどうか、また、医業の停止を命ずるとしてその期間をどの程度にするかについての厚生労働大臣の判断は、その合理的な裁量にゆだねられているから、それが社会観念上著しく妥当性を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し又はこれを濫用したと認められる場合でない限り、これを違法ということはできない。

本件医師は、本件各犯行について懲役1年8月、執行猶予4年の有罪判決が確定しており、本件医師の本件における主張・立証の内容、刑事事件の経過、刑事裁判において取り調べられた証拠等に照らしてみても、刑事判決の認定事実や判断内容に誤りがあるとは直ちに認めることができず、本件医師が本件各犯行を犯したものと認めるのが相当である。

医道審議会医道分科会は、平成14年12月13日、医師法7条2項等に規定する行政処分についての公正な規範を確立する趣旨から「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について」と題する指針を作成し、今後同分科会が行政処分に関する意見を決定するに当たっては、同指針を参考としつつ、医師等に求められる品位や適格性、事案の重大性、国民に与える影響等を勘案して審議していくこととされた。

同指針は、医師、歯科医師に求められる職業倫理に反する行為についての基本的な考え方として、@医療提供上中心的な立場を担うべきことを期待される医師、歯科医師が、その業務を行うに当たって当然に負うべき義務を果たしていないことに起因する行為については、国民の医療に対する信用を失墜するものであり、厳正な対処が求められること、A医師や歯科医師が、医療を提供する機会を利用したり、医師、歯科医師としての身分を利用して行った行為についても、同様の考え方から処分の対象となること、B医師、歯科医師は、患者の生命・身体を直接預かる資格であることから、業務以外の場面においても、他人の生命・身体を軽んずる行為をした場合には、厳正な処分の対象となること、C我が国において医業、歯科医業が非営利の事業と位置付けられていることにかんがみ、医業、歯科医業を行うに当たり自己の利潤を不正に追求する行為をした場合については、厳正な処分の対象となるものであること、以上の点を明記している。さらに、事案別考え方として、わいせつ行為については、@国民の健康な生活を確保する任務を負う医師、歯科医師は、倫理上も相応なものが求められるものであり、わいせつ行為は、医師、歯科医師としての社会的信用を失墜させる行為であり、また、人権を軽んじ他人の身体を軽視した行為であること、A行政処分の程度は、基本的には司法処分の量刑などを参考に決定するが、特に、診療の機会に医師、歯科医師としての立場を利用したわいせつ行為などは、国民の信頼を裏切る悪質な行為であり、重い処分とすること、以上の点を明記している。

本件医師が行った本件各犯行は、医師としての立場を利用して、女性患者に対して診療行為を装って繰り返しわいせつ行為に及んだというものであって、被害者の人格を無視するものであることはもとより、医師としての信頼を著しく裏切る悪質な行為であり、その実質に照らしても、医道審議会医道分科会の指針に照らしても、重い処分が妥当するものというべきである。

本件医師は、本件処分は他の処分事案と比較して均衡を欠いていると主張しているが、罰金以上の刑に処せられた医師に対する医師免許の取消しや医業停止処分等の決定については、当該刑事罰の対象となった行為の種類、性質、違法性の程度、動機、目的、影響のほか、当該医師の性格、処分歴、反省の程度等、諸般の事情を考慮して、厚生労働大臣の合理的な裁量判断に基づいてされるものであるから、他の処分事案との間で外形的に単純な比較をすることによっては、本件処分の違法性の有無を判断することはできない上、本件医師が指摘する他の処分事案と本件各犯行を、本件記録からうかがわれる事情を基に上記の観点に即して検討してみても、本件処分が他の処分事案と比較して著しく均衡を欠くものとは直ちに認められない。

精神科における治療については、医師と患者の信頼関係が重要であって、現在も本件医師の診療を希望している患者が相当数存在するとしても、それらの治療行為が全く代替性のないものであるとは認められない。

医師としての本件医師を欠いては本件クリニックの経営が破綻するおそれがあるということや、それによりスタッフ、家族が多大な影響を被ることも、それ自体が本件処分の適法性を否定する十分な根拠となし得るものではない上、その経営維持の方策が全くないとも考えられない。

医師としての立場を利用して、女性患者に対して診療行為を装って繰り返しわいせつ行為に及ぶという本件各犯行を行い、懲役1年8月、執行猶予4年の有罪判決の言渡しを受けた本件医師に対し、厚生労働大臣が医師法4条3号に該当するとして同法7条2項に基づいてした本件処分について、本件医師主張の諸事情を含めて検討してみても、これが社会観念上著しく妥当性を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し又はこれを濫用する違法なものであるとは到底認めることができない。

争点2  本件処分の手続的違法性の有無
【裁判所の判断】
本件医師は、本件処分を行うに際しては、愛知県知事が提出した意見書を踏まえて、医道審議会が本件医師に対して改めて弁明聴取をさせるべきであったなどとして、本件処分は手続的適法性を欠く旨主張する。

医師法は、厚生労働大臣が医師免許取消処分を行うときには、あらかじめ、医道審議会の意見を聴かなければならないこと(7条4項)、また、都道府県知事に対し、当該処分に係る者に対する意見の聴取を行うことを求め、当該意見の聴取をもって、厚生労働大臣による聴聞に代えることができること(同条5項)を規定しているところ、本件処分に際しては上記規定に従った手続が履践されていることが認められる。そして、医師法は被処分者に対するそれ以上の弁明聴取を求めてはいない。

本件医師が指摘する愛知県知事の意見書には、本件医師の事件後の対応について一定の評価をする趣旨の記載があるが、その書面は同知事から厚生労働大臣に提出されており、同大臣はこの点をも考慮した上本件処分をしたものと解される。

また、本件医師は代理人弁護士を選任し、厚生労働大臣及び愛知県知事あての詳細な意見書等を提出し、愛知県の担当職員は本件医師及び代理人弁護士からの意見聴取を行ってその内容を記載した調書を作成し、それらが同知事から同大臣に対して送付されていることが認められるから、更に改めて弁明聴取の機会を設けなかったとしても、手続的適法性を欠くことにならないことは明らかである。

したがって、本件医師の手続的瑕疵についての主張は全く理由がない。

 3 判決:結論

主文:原告の請求を棄却する。

本件処分は適法であると認められ、本件医師の請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。


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